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災害時に妊産婦・乳児の命を守る施設
【文京区のプロジェクト~妊産婦・乳児救護所】

男女協働・子ども家庭支援センター課長 鈴木秀洋さん
男女協働・子ども家庭支援センター課長 鈴木秀洋さん

2013年、文京区は地域防災計画に、「妊産婦」と「乳児」専用の救護所を盛り込みました。災害時に職員及び助産師を派遣し、妊産婦・乳児の心身をケアする拠点とする取組みです。設置の経緯と、クリアしなくてはならなかった問題などについて、設置の当時、文京区危機管理課長で、現在は、男女協働・子ども家庭支援センター課長の鈴木秀洋さんにお話しを伺いました。

東日本大震災の現場から得た教訓

「母子救護所」の必要性を感じられたのはなぜですか?

鈴木さん:2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。震災後、先遣隊(危機管理課長)として釜石に入り、避難所の様子を目の当たりにしました。特に妊産婦さんや、乳児の安全安心が守られていないことに、ショックを受けました。乳児の泣き声を気にしたり、妊婦さんが安心して出産することも難しいために、避難所を去っていく乳児の親や、妊産婦さんたち。その後、避難所に入った職員の報告や東北3県の避難者受入れを通して、文京区の仕組みづくりに向き合いました。

最初はプロジェクトとして、構想を固められたそうですね。

鈴木さん:震災後の課題は山積みでした。また首都直下型地震がいつ来るともわからない中、新しい予算取りのための資料作成や、審議会等の設置を行っている時間的・労力的余裕はありませんでした。そこで、任意の(使命感ある地域の人達と)プロジェクトチームを立ち上げました。医師、助産師、看護師など、専門家をはじめ、子育て支援をしているNPOや、地域のパパ・ママにも集まってもらい、昼夜なく知見を集め、「妊産婦・乳児救護所」のプランを練っていきました。

災害弱者の中で、妊産婦と乳児をなぜ重視するのか

壁になったことはありますか?

鈴木さん:社会的弱者と言われる人々(障がい者、高齢者など)の中で「なぜ、妊産婦と乳児を優先するのか」というところでした。もちろんそれぞれ優先しなくてはなりませんが、東日本大震災の教訓として、特に関心がもたれなかったのが、妊産婦と乳児だと強く感じていました。
そこで、妊産婦等への優先対策の必要性について、いくつもの文献を当たりました。また様々な災害・危機管理の講演会・シンポジウムにも出かけ、エビデンスを集めました。その中で(当時)東京臨海病院院長山本保博先生からは国際基準では、災害弱者に、「C(hildren)、W(omen)、A(ged people)、P(atients & poor people)、F(oreingn people)」を位置付け、対象をとるべきとされていること、その中でもC及びWは妊産婦・乳児をさすと解釈すべきであり、最優先弱者として対策の優先順位を上げなければならない(『東日本大震災を踏まえた予想される都市災害への医療対応策』と題する講演(2012年8月2日日本危機管理士機構第三講義)と教えられたことは、その後の対策を進める上で非常に参考になりました(そのほかにも、スフィア・スタンダードなどもひとつのエビデンス)。
そして、まずは、間違いなく最優先課題である妊産婦・乳児に対する具体的制度設計を直ちに行おうと考えました(当時必要性について記述はありましたが、詳細な具体的制度設計については示されたものはなく、文京区の具体的制度設計はその後、東京都や国にも採り上げられ、全国から問い合わせがあり、有する地域資源ごとに形を変えて全国に広まっていきました。このことは非常にうれしかったです。)。

 

国際基準は、災害弱者を以下のように定め、子供・妊産婦を明確に位置付けている。

Children
Women
Aged People
Patients
Poor People
Foreign People

東京臨海病院山本保博院長『東日本大震災を踏まえた予想される都市災害への医療対応策』より

 

「妊産婦・乳児救護所」の設置場所として、区内の大学と提携したというのも、珍しい取り組み方だと思います。

鈴木さん:避難所としては、小・中学校の体育館が主に指定されています。ただ、命に関わり、特別な配慮が必要な人達への上乗せ対応として、区内の大学、特に女子大学に協力を仰ぎたいと考えました。女子トイレの数が確保されているなどの利点がありますし、実習設備としてベッドや入浴施設を兼ね備えている大学や、福祉・介護系をもつ大学は、学生の協力という点でも理解を示してくれました。もちろん最初から二つ返事というわけにはいかず、大学には何度も足を運び、調整し、協定を結びました。「どの場所を指定できるのか?」、「防災無線通信機や備蓄をどこに置いて管理を行うのか?」、「そのサイクルは?」など、災害という緊急時の、学業との優先関係や、事故の場合の責任負担など、法的関係を何度も詰めました。考え方のベースは同じでも、大学ごとに議論すべきポイントは異なりました。同じように、人の派遣を依頼した東京都助産師会館や東京都助産師会、順天堂大学病院等との間でも、単なる紳士・握手協定ではなく、具体的な課題をクリアしてから協定を結びました。

大学との避難訓練も実施

協定後は訓練などしているのですか?

鈴木さん:上位の地域防災計画や、男女平等条例に書き込み、法的位置付けを明確にし、具体策と連動させました。災害時、誰がどこの避難所、母子救護所の担当になるのか、職員配置のリストも作成しています。母子救護所は、その場所で安全に出産できることが必要ですから、担当職員は、妊産婦の理解等の研修を受けています。出産をサポートする助産師さんにも、母子救護所に駆けつける担当表を求めています。
協定を結んだ4つの大学には、①粉ミルク、②アレルギー用粉ミルク、③紙オムツ、④お産セットなどの備蓄もしています。備蓄のスペースは基本的に文京区が管理しており、使用期限になったら入れ替えるなど、定期的に中身のチェックも行っています。

災害時の情報発信などはどのように行われますか?

鈴木さん:防災無線、衛星電話、安心・防災メール、ツイッター等のほか、文京区では日常的な子育て情報を発信している「きずなメール」を利用して、災害時に有用な情報発信をする予定です。
※ きずなメールについての詳細は以下のとおり
http://www.city.bunkyo.lg.jp/kyoiku/kosodate/kosodate/merumaga.html

鈴木さんは現在は、男女協働課長、子供・家庭支援センター課長という立場にいらっしゃいますが。

鈴木さん:いつ来るか分からない災害に備えるには、まさに日頃の制度設計、訓練、意識によります。今後は、構築した制度をメンテナンスしつつ安定運用・バージョンアップしていくことが大切だと思っています。私は、男女協働(ジェンダー・人権)セクションと、子供・家庭支援センターセクションを指揮する責任者として、日々全力で、子供の命を守っております。

男女協働・子ども家庭支援センター
課長 鈴木秀洋さん

 

協定締結調印式協定締結調印式

  • 跡見大学防災訓練。受付風景
    跡見大学防災訓練。受付風景
  • 跡見大学防災訓練。研修風景(区は講評を担当)
    跡見大学防災訓練。研修風景(区は講評を担当)
  • 武蔵野大学附属産後ケアセンター桜新町 食堂
    備蓄物資(粉ミルク、ほ乳びん、紙オムツなど)