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産育休復帰を望む女性社員と企業の橋渡しライフイベントを迎えても女性が働き続ける社会を目指す
NPO法人ArrowArrow 代表理事 堀江由香里さん

NPO法人ArrowArrow 代表理事 堀江由香里さん

大学卒業後、ベンチャー企業で新卒採用や就職支援セミナーを担当、その後病児保育事業を行うNPOで、中小企業向けワークライフバランスのコンサルティングや病児保育の法人契約担当などをした後、2010年ArrowArrow設立、2011年NPO法人化し現在に至る。2012年ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京2012年度投資・協働先選出。プライベートでは夫、娘の三人家族。

 

 育児休業制度の規定を持つ企業は年々増え、そこで働く女性が、育児休業を取得する割合は、8割を超える(※1)。しかし多くの中小企業では、現在も育児休業第一号目の女性社員に対しての対応も、社によってバラつきがある。中には育児休業取得の難しさや職場復帰後の不安から出産前に退職を選ぶ女性も多いという。中小企業向けに女性社員の妊娠から出産後のスムーズな職場復帰をサポートするNPO法人ArrowArrow 代表理事 堀江由香里さんにお話しを伺いました。


第一志望の内定を辞退した友人の言葉から奮起、ArrowArrowを設立

NPO法人ArrowArrowを立ち上げたきっかけを教えてください。

堀江さん: ArrowArrowを立ち上げる原点は、大学生の時の就職活動時での出来事です。当時は、就職氷河期と言われ、私は親友と一緒に就職活動を頑張っていました。ある日親友が念願の第一希望の企業から内定をもらいました。ところが「内定をもらったけど、結婚した後、仕事を続けられなさそうだから、諦める」と内定を辞退してしまったのです。何故希望の会社の内定をもらったのに、諦めてしまうのか納得できず、親友と大喧嘩になりました。女性が結婚や、子供が生まれたら働き続けられない社会に対しても、悶々とした思いが沸いてきました。


 その出来事からいつか「女性がライフイベントで自分のやりたいことをあきらめずに続けられる、選択肢のある社会を目指す組織を作りたい」という思いが芽生え、独立意識をもって就職活動を続けました。そして、ベンチャー企業に入社し、新卒ながら人事部の新卒採用のチームに入りました。採用した人が短期間で辞めていくことなどを見て、より自分のビジョンに近く、経験値を増やしたいと、その後病児保育事業を行っているNPOで働きました。そこでたくさんの働くお母さん達に出会い、職場復帰後も日々悩み、格闘しながら、仕事と育児をこなす姿を見て、ずっと温めていた独立を決意し、2010年ArrowArrowを設立し、2011年NPO法人化をしました。


ArrowArrowスタッフ
2015年に5周年を迎えたArrowArrow。スタッフと娘と一緒に。「団体立ち上げ当時は独身で、その後結婚、出産と怒涛の5年間でしたね」(堀江さん)


企業と産育休取得社員や若手女子社員の橋渡し役「産休!Thankyou!」、「社員!Shine!」

ArrowArrowで行っている「産休!Thankyou!」と「社員!Shine!」について教えてください。

堀江さん: 「産休!Thankyou!」は、主に中小企業向けに女性社員の産育休(※2)をトータルサポートするプログラムです。大企業では浸透してきた産育休の制度も、中小企業では、第一号となる女性社員に、どのようなサポートをしてよいか、出産手当や育児休業給付金の複雑な手続きは、企業側も戸惑うことが多いです。そこで、私達が、当事者である女性社員へのコミュニケーションの取り方から、女性社員が担当している仕事を整理し、どのように他の社員に引き継ぐかなどをサポートします。また、後任社員の採用などに使える助成金などの情報提供も積極的に行っています。企業側もマタニティ・ハラスメントを気にしすぎて、うまく女性社員とコミュニケーションが取れない、よかれといった言葉が逆効果になることもあります。日々のコミュニケーションの大切さやどんな言葉に相手が傷つくか、女性社員にも制度にぶら下がることなく、自身のキャリア形成を考え、上司に伝えるようにレクチャーしています。このプログラムでフォローした方が、産後職場に復帰した時、本人が希望する新規事業のプロジェクトメンバーに選任された事例もでてきています。


 「社員!Shine!」は、女性社員向けのライフイベント(出産、子育てなど)に対する不安を解消し、ライフイベント後のキャリア構築を考える研修です。これから結婚、出産、育児を迎える若手の女子社員や、産育休取得者がまだいない企業で実施をしています。受講者からは「出産後、復帰までの流れが分かったことで漠然とした不安への対応も考えることができ、会社を辞めずにライフイベントを迎えられるとわかった」という声があがりました。女性社員の「不安」を解消することで、企業にとっても早期退社せず、長く働く女性社員を持てることになります。


活動報告レポートとパンフレット
ArrowArrowの2015年度活動報告レポートとパンフレット


様々な企業の産育児休業に関わる中で気づかれたことはありますか?

堀江さん: 多くの企業を訪問して分かったことが「産育休取得1号目の職場復帰が、その後の産育休取得社員につながる」ことです。1号目の方がスムーズに復帰し、その後の活躍を他の社員が知ることで「産育休を取得しても復帰できる」ことが分かり、2号目、3号目と続きます。もし、1号目の方がうまく復帰できないなどがあると、企業側も産育休を取得する人に対して消極的な考えを持ってしまいます。全国にある企業のうち中小企業は9割という数字もあり、中小企業1社、1社の産育休後の復帰1号社員が、スムーズに職場復帰することが増えると、女性が出産、育児で離職するという現状が、少しずつ解消されると強く思っています。


イベントの様子
法人5周年イベントの様子(2016年5月14日田町にて)


再就職を望む育児中の女性と地元企業をつなぎ、地域雇用を増やす「ママインターン」

国分寺市や世田谷区、小金井市、調布市や全国にも広がっている「ママインターン」について教えてください。

堀江さん: 「ママインターン」は3年前、国分寺市の協働事業として始まりました。この事業は、出産、育児などで離職したお母さん達が、再就職にあたっての心構えやチームで課題に取り組む研修などを受け、その研修内に地元企業でのインターンシップを行います。講座は託児付きで行う場合もあり、インターンシップ後お互いの同意があれば、採用につながるものです。現在、東京都では、国分寺市と世田谷区、小金井市と調布市と4カ所、他県では群馬県高崎市、宮城県名取市、静岡県三島市、愛知県名古屋市と全国に広がってきました。


 受講生からは「地元にこんなに育児中の母親に優しい優良企業があったことに驚いた」という感想をいただき、企業側からは「求人広告に掲載するまでもない、ニッチな仕事をしてくれる人が探せる」と好評です。お互いのミスマッチが少ないのもこの事業の特徴で、両者のニーズをうまくマッチングできています。先日、3年前の受講生から最初は週1日の勤務だったのが、1日ずつ増え、現在は週5の勤務になり、お子さんも一時保育から、認可保育園に入園できたという、うれしい報告を受けました。妊娠、出産での離職後の再就職は、まだまだ厳しい状況ですので、全国の各地域にママインターンが広がって欲しいです。この事業がきっかけで国分寺市の施策にも女性の再就職支援が取り入れられることになりました。


ママインターン
「ママインターン」の講座風景。チームで課題に取り組む


ArrowArrow
団体名ArrowArrowは、「矢印」を意味し、「選択肢、可能性」を意味する。団体ロゴも矢印をいくつか使ったもの


今後の展開や、夢を教えてください。

堀江さん: 大きな展望としては、娘が就職する頃には私や多くの女性が悩んだようなことがなくなり「結婚しても、子供が生まれても、産育休業を取って復帰して、働き続ける」ことが当たり前の社会であって欲しいです。当団体としては、「産休!Thankyou!」から生まれた安価での提供が行えるパッケージ型サービスの産育休面談シート「ライト・ライト」の普及を進めることで、より多くの企業で活躍できる女性社員を増やすことに寄与できたらと考えています。


写真提供:NPO法人ArrowArrow


HP:http://arrowarrow.org/


※1厚生労働省「平成 27 年度雇用均等基本調査」の結果概要
 I 育児・介護休業制度等に関する事項 1 育児休業制度 (1)育児休業制度の規定状況 (3) 育児休業制度の利用状況

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-27-07.pdf


※2産育休…産前産後休業、育児休業を合わせた呼称。