とうきょう子育てスイッチ 共育者インタビュー

子供は、誰かが見守っていて安心すると、冒険に出られます。
岸田 久惠(きしだ ひさえ)さん

プロフィール
岸田 久惠(きしだ ひさえ)さん

新宿区の小学校の教員、東京都教職員組合の執行委員、東京都労働組合連合会の役員を務め、2016年3月で38年間の教師生活を定年退職。2011年、在職中に家族4人で学び塾「猫の足あと」を立ち上げる。2016年3月、定年退職と同時に1階に無料の塾、2階に賃貸の部屋を備えた「猫の足あとハウス」を開設。

貧困生活防止に「間に合う」中学3年生


「猫の足あとハウス」。1階は無料の塾として、2階は若者の住居として格安で部屋を提供している。

-「学び塾猫の足あと」はご家族で立ち上げられたとのことですが、珍しいですね。 よく言われます(笑)。東京都教職員組合の執行委員を務めた時に、子供の貧困問題に直面して、課題意識がありました。自分にできることは何だろうと考えた時に、最小単位でできるのは自宅を開放して学習支援をすることだと思いました。また、自宅だから家族の了承を得る必要がありました(スタート時は、岸田さんが代表、娘さんが副代表、息子さんが先生、ご主人が顧問)。



猫の足あとハウスの1階。無料の塾として学習支援を行っている。塾の先生はボランティア。

-なぜ、中学3年生の学習支援としたのでしょうか?
貧困生活を阻止するためのギリギリ間に合うところなのだと考えています。データにも出ています。高校に進学しないと就職率は低いし、年収も低い。以前まで子供の貧困は、7人に1人だったのが、今は子供の6人に1人が貧困だといわれていて、その貧困の深刻さは年々増している、という現状があります。
「猫の足あと」の第一期生の中には、中学3年生の時、お父さんから「進学は諦めて、働け」と言われていた子がいましたが、本人の希望から行きたい高校に進学することができて、卒業後に就職が決まった、ということがありました。その子の選択に関われてよかったと思っています。


岸田さんが受け持った学校の卒業生たち。デスクに飾られている。

「教える」「教えられる」が地域で循環していく

-学び塾「猫の足あと」で印象的なエピソードを教えてください。 最初の年に教えていた子が、この春で大学二年生になり、塾の先生として帰ってきてくれました。彼は今年の4月から、娘の跡を継いで「猫の足あとハウス」の副代表です。「自分も教わったから教える」と、地域で循環しているのです。勉強を教えると「ありがとう」と言われますよね。それは社会的に認められることでもあって、自分の価値観が上がることだと思います。 今ボランティアで参加してくれている塾の先生達は、その子の友人もいます。先生が地元のことを知っているので、生徒たちは、ごはんの時間に共通の中学校の話ができたりして、楽しそうですよ。


-先ほど出てきた「自分の価値観が上がる」とはどういったことでしょうか? 自己肯定感を得られる、ということでしょうか。今の人達は、負けないための競争をさせられている感じがあります。ちゃんと勉強しないと大学に行けない、大学に行かないと正社員になれない、と。負けないために戦っているという印象です。でも、勝てる子はひと握りなので、劣等感を持たされてしまうというか。親も「そのままでいいよ」と子供に言ってあげられる余裕が無くなっているように思います。本来これは自己責任ではないのです。今の社会が原因でもありますから。


岸田さんの宝物。小学校の現場と東京都教職員組合の執行委員を務めたことが良い経験になったという。

-根本的に「学ぶ」ことについて、どう考えていますか? 学ぶということは、喜びでなければいけないと思っています。見えなかったものが見える、世の中のことがわかる、自分のことがわかる。「目が開かれる」という発見があると面白いですよね。現代では「勉強は、辛くても乗り越えるもの」となっていますが……。自分自身が興味を持てることに出会ってない場合もあります。最初は、機関車でも恐竜でもいい。興味を持ったことを突き詰めていくと新しい発見があって繋がっていくのです。だから教職員時代、なるべく「授業を面白くしよう」と心がけていました。難しいですけどね(笑)。

勉強はまず、お腹を満たすことから

1階にはキッチンもある。食事作りは岸田さんの担当。

-せっかく周りが面白くしようとしても、それが届かない子もいますか?
心が閉ざされていると楽しいと感じないですよね。そこには違う原因があって、例えばそれが貧困です。親の生活がギリギリだと子供に虐待をする、親が深夜まで働いていて、勉強する環境にない……子供本人の努力次第ではどうにもならないことがあります。根本的に「お腹が空いてる」状態の子は、勉強どころではないのです。だから、ごはんも提供するようにしました。子供は心が安定して、「誰かが見守っていてくれる」という安心感があって、冒険に出られるんです。勉強という知的冒険もそうだと思います。


2階は全部で5部屋あり、それぞれに収納がついている。3部屋は入居済み(2016年6月1日現在)

-2階に住んでいる方とも交流はありますか?
1階の無料塾の先生として生徒に教えてもらったり、一緒に勉強したりしています。私と娘と一緒に出かけたり、お花見をしたり。また成人式には、娘の着物を貸す予定もあります。色々と交流があるので、一人でいたいという方には、向いていないかもしれません(笑)。
今年4月に、このハウスのことが新聞に載って、お手伝いしたい、援助したいというお話がありました。お米やたけのこを持ってきてくれて、とても助かっています。こういう人間関係が成り立っていれば、孤立しないで生きていける、それは財産ですね。


風呂トイレは共同。脱衣所には人数分の棚(写真左側)が備え付けてある。

※就学援助率…経済的に苦しい家庭に、学用品や学校給食、修学旅行費などを援助する就学援助を受ける対象となった小中学校生の割合。

参考
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm
http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/11/study-supports-for-children_n_4945841.html

学び塾「猫の足あとハウス」へ支援や援助をご希望の方は、下記アドレスへご連絡ください。
Email: hisae.kishida@gmail.com
代表 岸田久恵氏