とうきょう子育てスイッチ 共育者インタビュー

満足した経験の積み重ね。それが、子どもの心を豊かにする。
石井 今日子(いしい きょうこ)さん

プロフィール
石井 今日子(いしい きょうこ)さん

認定NPO法人グッド・トイ委員会子育て支援事業部部長、東京おもちゃ美術館副館長。幼稚園教諭、保育士、子育て支援センターに勤務した経験を活かし、幅広い年代の人が楽しめる東京おもちゃ美術館を設立。美術館の中の一部屋「赤ちゃん木育ひろば」を通じて、日本の木の良さを伝える「木育(もくいく)」を広めている。プライベートでは二人の息子さんの母親。

東京おもちゃ美術館の副館長であり、日本グッド・トイ委員会の子育て支援事業部部長である石井さんに、「木育」とはどういうものかを伺いました。

「木育」(もくいく)とは?

2004年北海道で使われ始めた言葉。「木が好きな人を育てる活動」という意味で、日本グッド・トイ委員会では活動の目的を「かきくけこ」でまとめている。

.環境を守る
.木の文化を伝える
.暮らしに木を取り入れる
.経済を活性化させる
.子どもの心を豊かにする

国産の木を暮らしに取り入れ、さらにその木を使うことが環境を守ることにつながるという意識を持ってもらうものです。詳しくは、WEBサイト「「木育」ラボ」をご覧ください。
http://mokuikulabo.info/


母親と子どもだけでなく、すべての年代が子育てに関われる場所

-東京おもちゃ美術館の中の一部屋、「赤ちゃん木育(もくいく)ひろば」を通じて、「木育」を広めていらっしゃると伺いました。まず、東京おもちゃ美術館を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

私は、福岡で幼稚園の教諭をしていて、結婚を機に東京へ来ました。その後出産しまして、一人で子育てをすることが、とても大変なのだと気付きました。そこで保育士として働いたあと、子育て支援に目覚めたんです(笑)。自分が子育てをしていく仲間づくりをしようと思って、次は子育て支援センターの職員になりました。支援センターでは、職員は女性でしたし、来る人もほとんどがお母さんと子どもなので、なんだか女子高みたいだなと思っていました(笑)。私は、常々子育てをしているお母さんたちに「子育てをがんばっているよ。ちゃんと子どもが育っているよ」というプライドを持って生きてほしいと思っていて、そのお母さん達が育児をする環境が少しでも素敵になるような、そして街中の誰もが子育てに関われるオープンな場所を作りたいという思いで、この東京おもちゃ美術館を作りました。



-「おもちゃ」美術館という名前ですが、子どもたち限定の場所というわけではないのですね。

こちらでは、対象年齢を0歳~99歳としています(笑)。「おもちゃ」美術館という名前ですが、大人も本気で遊べる場所を目指していて、幅広い年代の方と触れ合うことができます。また養成講座を受講したボランティアの方々が「おもちゃ学芸員」として来館されるお客様と一緒におもちゃで遊んだり、お話をさせていただいたりしています。おもちゃ学芸員は、皆が子どもに精通している方だけとは限らず、定年退職されたシニアの方もいれば、大学生、主婦、会社員の方もいらっしゃいます。このように幅広い世代のお客様が触れ合って遊ぶことで、コミュニケーションが促進できるのかなと考えています。



大人気の「赤ちゃん木育ひろば」の全景。0、1、2歳が対象。手前に見えるのは樹齢約130年の杉の木。



「赤ちゃん木育ひろば」の床材(左・厚さ3cm)と一般的な床材(右・厚さ1.5cm)。フローリングの床に触れると冷たく感じるものだが、左のような厚みのある杉材には水分と空気が豊富に含まれているため、冬でも人肌に近い温度に感じる。幼少期のこういった経験が「き.木の文化を伝える」や「く. 暮らしに木を取り入れる」きっかけになっていく。


「子育て支援」+「木育」が「赤ちゃん木育ひろば」

-なぜ「木育」に携わることになったのか、経緯を教えてください。

2008年、東京おもちゃ美術館が始まった頃に「おもちゃのもり」※1という日本の木のおもちゃばかりを集めた部屋を作りました。その部屋は行列ができるほど人気だったのですが、偶然お客様としてご来館されていた林野庁の職員の方に「都会の真ん中に、こんなに国産材を活用しているところがあるなんて!しかも、とても人気がある」と絶賛していただいて、一緒に「木育」を推奨しましょうという流れになりました。そこで2011年10月にオープンしたのが、「赤ちゃん木育ひろば」です。ちょうどお客様から「美術館に赤ちゃんがゆったり、のびのびと遊べる場所が欲しい」と要望が出ていたので、タイミング良く実現する運びとなりました。ひろばの部屋で使われている建材やおもちゃは、九州や東京多摩産の杉材です。




※1「おもちゃの森」の部屋(左)。すべて木でつくられたおもちゃが揃っている。右は小さな木のおもちゃで遊べる「たくみの小屋」。


-「赤ちゃん木育ひろば」で行われている子育て支援を具体的に教えてください。

例えばこのおもちゃ、「くるりんカー」※2というのですが、京都の北山杉というブランド杉で、昔は和室の床柱になるものとして有名でした。でも、近年の日本家屋には和室がなく、床柱も必要なくなり、おもちゃ職人さんの手でおもちゃになりました。1本の杉を輪切りにしています。そういうお話をご来館された親御さん達に話すと、「京都の北山ってどこだろう?」と行ったことのない場所に思いを馳せたり、「杉の木として生えていた時は、きっと枝があって、その枝に小鳥が止まって、こう鳴きましたかね?」なんてとても想像力豊かにおっしゃる方もいます。そういう、子育てには直接関係のないことをおもちゃ学芸員と話せると、ゆとりが生まれますよね。まず親御さんが「楽しい」と思って心が満たされますし、日々の子育て生活の中で、親御さんにゆとりがあると、子どもにもゆとりを持って接することができると思います。




※2「くるりんカー」(左)と、元は同じ木だったその「兄弟」たち(右)。 京都北山のおもちゃ作家・中山カズトさん作。人造の北山杉は、成長中に割りばし状の当て木を巻き付け、表面に独特の凹凸(絞り模様)を付ける。輪切りにすると、年輪や絞り模様が際立つ。

実は豊かな日本の森林資源

また、先ほどの北山杉の話のように、1本の木を通じて、外国産の安価な材木にシェアを押されがちな国産の木という存在や現状を知ってもらい、国産材をおもちゃとして使って良さを感じてもらうことができる……これも「木育」の一部なのかなと思っています。現在、春先になると花粉をまき散らす杉が悪者のように見立てられることがありますが、それは木のせいではなく、お金がかかるという理由から、適切な手入れがされていないためだと言えます。地球全体の視点からだと森林破壊が進んでいますが、日本には植林されて50~70年の「伐り時」といわれている杉材が多いそうで、材木の資源は豊かなんですよ。



大分を拠点に活動をしている造形作家有馬晋平さんの指導を受けて作った、奈良県の吉野杉と秋田県の秋田杉を材料とする「ミニスギコダマ」。そのミニスギコダマを300個作るワークショップが開催され、学生から企業のCSRボランティアまで、さまざまな人々が膨大な手間をかけて制作した。ミニスギコダマは子どもの年齢によって、手触りを楽しんだり、運んだり、おままごとに見立てたりと何通りにも遊ぶことができる。


満足すると、心が豊かになって、幸せに。

-「木育」の目的に「こ.子どもの心を豊かにする」とありますが、「心が豊かになる」とはどういうことだとお考えですか。

表現することが難しく、ずっと考えているのですが、まず子どもがよく遊んで満足すること。その満足した経験がいっぱいある子は、心が豊かになって幸せなのではないかと思います。
例えばこの「Tuminy(ツミニー)」というおもちゃ。車の積み荷を四角い棟の部分に入れると、カタンと真四角の積み木が自動的に積まれる仕組みになってます(※3写真・動画参照)。このカタンと積み荷が積み込まれる瞬間、子どもは盛り上がって「ママ、これ見て~」と言いますよね。そういうおもちゃに変化のあった時や、その子の見て欲しいちょうどいいタイミングで「すごいね~」と共感したり、「緑色の積み荷が好きなの?」と気持を汲んで相手をしてあげると、子どもに「あなたのことを見てるよ」と伝わり、子どもも安心して次の遊びのステップに進めると思います。
こういったことはアナログで、とてもスローステップなのですが、子どもの心は満足した経験がもとで成長するのではないでしょうか。子どもはこうして集中して30分も遊んだら、気持ちがパッと切り替わるので、素直に帰っていきますよ。



※3「Tuminy(ツミニー)」。積み荷を積んだ車で、子どもが「お届けものです!」、親が「はい、ハンコを押しましたよ~」と宅配便ごっこをして一緒に遊ぶこともできる。

-満足したという経験が、心の成長につながるのですね。

「好きなことに集中して、何かに取り組んだ」という経験があると、大人になっても自分の楽しいことが何かと気づける人、分かる人になると思います。「私にはこれだ」と心が満たされる自分だけの「ものさし」ができるので、そういう人は幸せなのだと思っています。