とうきょう子育てスイッチ 共育者インタビュー

「絵のちから」で親が病気を抱えている子ども達に寄り添う。
NPO法人ぷるすあるは 細尾ちあきさん 北野陽子さん

プロフィール
細尾ちあきさん 北野陽子さん

細尾ちあきさん[お話と絵を担当](写真左)
兵庫県生まれ。看護師。精神科ひとすじ。関西で長く診療所に勤めた後、2008年からさいたま市こころの健康センターに勤務、2012年からプルスアルハ(現在ぷるすあるは)で活動を行う。編み物が得意。感覚過敏持ち。絵で特にこだわっているのは目と色づかい。

北野陽子さん[解説を担当、代表理事](写真右)
長崎県生まれ。医師・精神保健指定医。精神科病院、さいたま市こころの健康センター等を経て、2012年からプルスアルハ(現在ぷるすあるは)で活動を行う。工作が得意。


 頬がほんのり赤い子どもがじっとこちらを見つめているポスター。これは子ども虐待防止オレンジリボン運動「公式ポスターコンテスト2016」で最優秀賞を取ったぷるすあるはの細尾ちあきさんの作品です。
ぷるすあるは、絵本やウェブサイトなどのコンテンツ制作を通じて、精神障がいやこころの不調、発達障がいをかかえた親とその子どもの応援や精神保健の普及活動をしています。 イラスト制作を中心に活動されている看護師の細尾ちあきさんと、代表理事で、医師の北野陽子さんにお話をお伺いしました。


子ども虐待防止オレンジリボン運動「公式ポスターコンテスト2016」で最優秀賞を取ったぷるすあるはの細尾ちあきさんの作品。ポスターは都庁など東京都内各所に貼られている。

親が病気を抱えている子どもへの支援を

-お二人が出会ったきっかけを教えてください。
細尾:北野さんとは、前職(さいたま市こころの健康センター)で同僚でした。リーフレットを作ったり、通われている方のプログラムを考えたりと、一緒に仕事をすることも多く、関わりが増えて話を交わすうちに「親が病気を抱えている子どもへの支援」ができないだろうか?という話があがりました。私は長く京都の精神科のある診療所で看護婦をしていたのですが、患者さんが子どもを連れて来た時は、診療中、子どもと話したり遊んだりしていました。その内に子連れの患者さんが増えてきて、待合室の一角に駄菓子コーナーを作ったり、漫画を置いたりと、親を待つ子どもへの工夫をしていました。院長がとてもオープンな方だったのと、患者さんも自転車や徒歩で来る方がほとんどという地域に根差した診療所だったからできたことでもあります。そこでの子どもと関わりは、活動を始める原点です。

北野:細尾さんが勤められた診療所は、珍しいところだと思います。一般的な精神科では、患者さんのお子さんのフォローまでは難しく、親が病気を抱える子どもへの支援も、見える形ではなされてはいなかったです。近年は、病気以外にも経済的な事情など、さまざまな困難をいくつも抱えている親に、自治体の支援情報が届かず、支援の手も入ることができない事例が増えています。子どもへの支援の必要性が更に高まっていると感じます。


心理絵本の制作を手掛ける細尾さん「絵本は、答えがひとつじゃないところや自分のペースで開けて読めるのがいいですね」


絵本を通じて「あなたは一人じゃない」「話しても大丈夫」を伝えたい

-家族の病気を子どもに伝える絵本や子どもの気持ちを知る絵本を出版されています。
細尾:2012年に『ボクのせいかも…―お母さんがうつ病になったの―』(ゆまに書房)が出版になってから、今まで7冊の心理絵本を作りました。子ども達、特に小学生は、親が病気であることを、友達や先生に話したり、情報共有するのは、現状相当難しいと思います。厳しい状況にある時に、学校や図書館でぷるすあるはの絵本を手に取って、読んでみたら、自分の家と同じことが書かれている。「本に書かれているということは、自分だけじゃないんだ」「一人じゃないんだ」「話してもいいんだ」と気づくきっかけになれば……。親の病気を「自分のせいだ」と思っている子どもがとても多く、決してあなたのせいではない。「大人の問題」だということを知って欲しいです。親側も自分の病気をいつか子どもに伝えたいが、どう伝えていいか分からない。絵本を通じて伝えられたという声も聞いています。

北野:最初の制作を絵本にこだわったのは、前職で行った子ども向けのプログラムで手作りの「紙芝居」を使ったら、とても反応がよかったこともあります。多感な思春期の子どもも、紙芝居が始まると、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて集中して見入っていました。大人にもとても好評で、細尾の持つ「絵の力」を存分に活かせるものは?と話し合い「絵本」に辿りつきました。



家族のこころの病気を子どもに伝える絵本(下段・うつ病、統合失調症、アルコール依存症編)と子どもの気持ちを知る絵本(上段・家庭内不和、不登校、発達凸凹・感覚過敏編)を発行


幅広い層への情報アクセスを求めて 子ども情報ステーション開設

-「子ども情報ステーション」は、ぷるすあるはが伝えたい情報がぎっしりつまっていますね。
細尾:絵本の普及も進めていますが、子どもが自分で絵本を買うのは難しいこともわかりました。今の子ども達にとってインターネットはとても身近なものですので、病気などの情報を一元化したホームページ「子ども情報ステーション」をクラウドファンディングで開設資金を募り、2015年に開設しました。開設から1年経ち、20万人の方々に訪問いただきました。

北野:サイトは、小学生、中高生、大人、学校の先生などの対象者向けの案内や、無料でダウンロードできるコミュニケーションツールのイラスト集や全国の相談窓口などを紹介しています。1周年のアンケートを取ったところ、当事者の方からも改善点などの声もいただき、これからのサイトに反映したいと思っています。



細尾さんの作品がぎっしり並ぶ、ぷるすあるはの事務所


大きな反響を呼んだ「子どものきもち絵本原画展」設

-今年は初の原画展を開催されましたね。
細尾:任意団体から2015年にNPO法人になり、今年は1周年ということで、東京都台東区谷中にあるギャラリーで「子どものきもち絵本原画展」を開きました。開催場所に下見に行き、その場の雰囲気を感じて描きおろした絵も加わり、会場いっぱいに展示しました。大作『未来へゴー』はよくみると笑顔がいくつも描かれています。絵の前で一生懸命、笑顔を探すお客様がたくさんいました。

北野:予想していたよりも大きな反響があり、短い開催期間でしたが、来場者は約300人になりました。絵本の原画や書きおろしの絵に「迫力があった」という感想をいただきました。

細尾:絵を見てドキッとしたり、心がザワザワしたりする方もいると思います。同じ絵を見てもその日の体調や気持ちで見え方や感じ方も変わります。一人ひとり違う思いを持って、原画から何か感じ取れることがあればと思います。

北野:関西や新潟の方から、原画展のオファーもいただきました。いつか全国をまわりたいですね。



子どものきもち絵本原画展~ぷるすあるは1周年感謝ギャラリー~
2016年6月28日~7月3日 HAGISO(東京都台東区谷中)


青から赤へグラデーションが素敵な書きおろしの大作『未来へゴー』


『未来へゴー』の絵をよく見ると「スマイル」を発見!

全国の小中学校にぷるすあるはの絵本を届けたい

-今進めていることや今後のことについて教えてください。
北野:2016年からスタートした「絵本で届ける保健室あんしんプロジェクト」(寄付する人の出身校や子どもが通う小中学校の保健室にプルスアルハの絵本を届けるプロジェクト)も、第1回目のうつ病編は、当初の目標冊数100冊を超える申し込みがありました。第2回目の統合失調症編は80冊を保健室に届けました。第3回目のアルコール依存症編は2016年10月下旬から申込み受付をする予定です。北海道から沖縄の小中学校にプルスアルハの本が届いています。中には保健室の先生が読まれて、全職員に回覧したというお話もありました。全国の小中学校にプルスアルハの絵本があって、子ども達が手に取れる状況をこれからもっと作りたいです。今後は、子ども情報ステーションのコンテンツ充実と新たな絵本制作に取り組んでいきたいと思います。


NPO法人ぷるすあるは
精神科の看護師、細尾ちあきさんと、医師で代表の北野陽子さんが、オリジナル絵本など心理教育ツールの制作・普及のために2012年に立ち上げた「プルスアルハ」を発展させる形で、2015年に設立。精神障がいやこころの不調、発達凸凹を抱えた家庭や、さまざまな事情の中で、頑張っている子ども達を、絵本やウェブサイトなどの情報コンテンツを通した応援や、ツールの企画制作や、さまざまな情報発信を通して、精神保健全般に関する普及啓発活動も行っている。

日本児童青年精神医学会 2014年度実践奨励賞、第12 回精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)支援者部門、子ども虐待防止オレンジリボン運動「公式ポスターコンテスト2016」最優秀賞受賞など。

NPO法人ぷるすあるは:https://pulusualuha.or.jp/

子ども情報ステーション:http://kidsinfost.net/

絵本で届ける保健室あんしんプロジェクト Part.3 アルコール依存症編 <申込受付期間2016年10月21日(金)〜11月27日(日) >
https://pulusualuha.or.jp/activity/part3/