とうきょう子育てスイッチ 共育者インタビュー

授乳服があれば 子育てはもっと楽しめる。
モーハウス代表 光畑由佳(みつはたゆか)さん

プロフィール
光畑由佳(みつはたゆか)さん

光畑由佳(みつはたゆか)さん
お茶の水女子大学被服学科卒。次女の出産後、電車内での授乳体験を機に「産後の新しいライフスタイル」を提案するため授乳服の製作を開始。お産・おっぱいをサポートする「モーハウス」を立ち上げる。表参道の路面店・青山ショップなどで「子連れ出勤」を実践中。内閣府・女性のチャレンジ賞ほか受賞歴多。


授乳服のきっかけは「中央線事件」だった

 授乳服を作り始めたきっかけになった出来事は「中央線事件」と呼ばれています。
 20年ほど前、まだ生まれたばかりの次女が中央線の車内でぐずり出してしまいました。いくらあやしても泣き止みません。そこで最終手段でシャツのボタンをあけて授乳をしました。周囲の目線と戸惑い。楽しいはずのお出かけで電車内で胸を出すなんて…。
 私のように、人目を気にして、泣き止んで欲しいと赤ちゃんの口を塞ぎたいぐらいの気持ちは、多くのお母さんが経験していることですよね。産院の先生は「母乳は楽ですよ」とおっしゃっていましたが、人前での授乳があまりにショックで、外での授乳に対して後ろ向きの思いまで持ってしまいました。こんなつらさを何とか解決できないかと考えた答が「授乳服」でした。
 初めて授乳服を着た瞬間、ものすごい驚きと感動があったんですよ。これなら子供が生まれても今までと変わらず出かけられる。自分らしくいられる。「これはみんなに伝えなければいけない!授乳服を広めよう」とモーハウスの前身となる活動をはじめました。


 でも当時、「授乳服」と言えるような服はありませんでした。海外製のものや、マタニティパジャマなど、さまざまな服を取り寄せて研究しました。どれも「授乳する穴が空いてればいいでしょ」という感じで、実際に授乳が外でできるようなものはありませんでした。試行錯誤して、赤ちゃんの肌に危険なボタンやファスナーを取り除き、肌触りがよく、デザインも悪くない授乳服ができあがりました。
 「これならママたちに喜んでもらえる!」と思っていましたが、最初のうちは誰も相手にしてくれませんでした。みんな「子育て期間は短い、これからお金がかかるのに自分のために使いたくない」と思っているんですね。今でも授乳服の存在は知っていても「いっときのことだから」と我慢するのが当たり前という風潮があります。
 それでも使った方の感謝のお手紙などに支えられて続けられました。


青山ショップ店内、モーハウスのモーは、MotherのMo。TPOに応じて選べる豊富なデザインも人気


お母さんを自由にする「着る授乳室」

産後、赤ちゃんと2人きりで部屋に閉じこもって、一日誰とも喋らないような生活のママも、授乳服を着れば赤ちゃんを連れて外出も気兼ねなくできる。自分のいる場所がいわば“ウェアラブル(着る)授乳室”なので、街中で授乳室を探して右往左往したり、下調べをしたり、ケープを羽織ったり、といった手間がなくなり、とても自由になります。
 「デザインが素敵」と言っていただけることもあるんですが、服そのもののデザインより、着ることで手に入るライフスタイルや意識変革のデザインだと思っています。便利グッズではないんですね。授乳服を着ることで、外に出られるようになる「自分を取り戻す活動服」。ですから「穴が空いてればいい」とは思っていません。誰からも授乳していることに気付かれないのが、授乳服の正しいありかただと思っています。


すごいのは授乳服よりも人の身体

「モーハウスの授乳服ってすごい」とお母さん達からよく言われるんですが「すごいのはあなたの身体の方だから」と応えます。授乳服は母乳を補助しているだけ、いわば車椅子や松葉杖のようなもので、それを社会に広げる活動も必要ですが、本当にすごいのはお母さんの身体のほうですよね。
 私自身も長女をほぼミルクだけで育ててきましたので、ミルクの良さも母乳の良さも体験しています。その中で、母乳は時短、効率化のツールであると思います。もし可能であれば「仕事に復帰するからおっぱいをやめる」ではなく、授乳服などを利用しながら、授乳を長く続けて欲しいですね。これまで仕事とは両立が難しいと思っていた母乳が、実は仕事の味方になる。こうしたことを知っているお母さんが増えれば、社会全体の授乳や子育て、女性の働き方に対する理解も深まるのではないかと思っています。



授乳が終わってもモーハウスの授乳服を着続けている方も少なくない。「私が今着ているのも授乳服なんですよ」


『子連れ出勤』というスタイルを広めたい

 モーハウスには、赤ちゃんと一緒に通勤して、そのまま勤務する『子連れ出勤』のスタッフが多くいます。
 普通の会社だと妊娠・出産で産休や育休、子育てが終わったら戻ってくるという形ですが、モーハウスの子連れ出勤では、妊娠したり赤ちゃんが生まれたりしてから入社、そして子供が大きくなったら卒業していくパターンもあります。職場に赤ちゃんが普通にいる環境です。子育て中のインターンシップみたいな位置づけでしょうか。
 子連れ出勤スタッフの採用とシフト組みはとても大変です。インフルエンザの季節などは人が集まらないし、時期によっては逆に集まりすぎることもあります。急に子供が熱を出して休むこともしょっちゅう。そのためのバックアップが必要ですし、原則として子供が1歳2ヶ月になると子連れから卒業してもらうルールのため、慣れてきたころに辞めてしまう。
 私たちは子連れ出勤のスタッフが辞めるのを「退職」ではなく「卒業」と呼んで「また生まれたらまた戻っておいでね」と送り出しています。「ここで働いてなかったら二人目、三人目を産まなかった」というスタッフも少なくありません。
 私たちの「子連れ出勤」という働き方は「小さい子供がいるから働くのは無理だよね」「保育園入るまで働けないよね」から一歩踏み出す提案です。
 赤ちゃんを抱っこして働いている人を見たら、同じ立場のお母さん達も「私にもできるんじゃないか」って思えますよね。子連れ出勤はひとつの事例ですが、今、病気、介護など、さまざまな事情で働けない人達に対して、多様な働き方のヒントになれば、と思っています。
 これからも授乳服、子連れ出勤をもっと広げて、女性が自由に自分の足で歩ける未来を応援していきたいと考えています。



青山店に張られたスタッフ募集の案内。お客として訪れた人が応募してくることもあるという



カジュアルなもの、親子でおそろいを楽しめるものなど、デザインは多岐にわたっている


http://mo-house.net/


撮影協力
THE LOCAL COFFEE STAND
http://thelocal2016.com/