とうきょう子育てスイッチ 共育者インタビュー

多言語電子絵本を通して、母語を子供達に伝えたい。
多言語絵本の会RAINBOW 石原弘子(いしはらひろこ)さん

プロフィール
石原弘子さん

大阪市で保育士を経験後、東京都目黒区に転居。子供の本や外国人支援の活動経験から、子供連れで参加できる日本語ボランティアの会を開始。2000年「にほんごの会くれよん」、2006年「多言語絵本の会RAINBOW」が発足。「多言語絵本の会RAINBOW」では多言語読み聞かせとともに、様々な国の言葉で読んだり聴いたりできる多言語電子絵本の制作に力を入れている。

かさじぞう 英語

外国につながる子供達の母語保持育成をとおして、母国文化と自分を大切にしてもらいたい

外国人ママと子供達
活動拠点の中目黒スクエアには、外国人ママと子供達が集まる

 もともと子供の本についての活動や、外国人の方への支援活動を行っていました。都内にはたくさんの外国から来たママ達がいます。その方々が気軽に出かける場所がなく、孤立しているという状況を知り、日本語の勉強をお手伝いする「にほんごの会くれよん」を立ち上げました。その中でフィリピンのママから、「自分の国の言葉は日本では必要ない」というのを聞いたことから、母語が使えない社会はよくないのではないかと感じました。調べてみると、夫から「自分の理解できない言葉を子供に話してほしくない」と言われた人や、電車の中で周囲から注視されるので子供に向けて韓国語を話せないという例があり、親子で母語が堂々と使える場が必要と考えました。

 母語を使う機会がない子供達は、母語の文化に触れることができませんし、大きくなってから「自分はどこの国の人間なのか」「なぜお母さんは母語を教えてくれなかったのか」と疑問を感じるときが来ます。特に、アジア・アフリカ圏の親達は、欧米圏に比べて、母語を子供達に教えない傾向がみられます。

 このようなママ達に、母語で子供達に絵本を読み聞かせ、母国の文化を伝える機会を持ってもらいたいと、2006年に「多言語絵本の会RAINBOW」を発足させました。当時は、どんな絵本にどんな言語の外国語版が存在しているのかわからず、困りました。2015年まで毎月一回、目黒区の図書館でさまざまな言語での読み聞かせを行ってきましたが、図書館の体制が変わったため、残念ながら現在は行っていません。この活動はまたどこかでできればと思っています。

初の多言語絵本にした作品「すごいよ、ねずみくん」(作:きむらゆういち、絵:鈴木アツコ)
初の多言語絵本にした作品「すごいよ、ねずみくん」(作:きむらゆういち、絵:鈴木アツコ)
図書館の絵本に添付された、多言語での冊子。(写真は韓国語とスペイン語)
図書館の絵本に添付された、多言語での冊子。(写真は韓国語とスペイン語)

19作品の多言語電子絵本をYouTubeで公開中

 最初は、目黒区子ども条例を扱った「すごいよ、ねずみくん」を中国語、インドネシア語、ポルトガル語などの9言語に翻訳しました。翻訳冊子を作り、図書館設置の同書の表紙裏に、冊子を挟み込むという形にしました。

 そして、2011年に11言語の音声化を開始しました。2013年、音声がどの文字を読んでいるかわかるように、ディスレクシア(注)向け読書支援システムのマルチメディアデイジーを使って制作しました。

 さらに読者を広げたいと、2015年にはYouTubeで視聴できる動画制作をはじめました。文化庁の協力を得て翻訳や音声の協力者を探し、徐々に全国で制作協力の輪が広がってきました。その結果、日本の昔話や「長崎の原爆」を多言語化することができました。現在、19作品、総122言語分が完成しました。

 制作、翻訳、音訳については、会に参加してくださる外国人ママ達の協力を得ています。ママ達は作品に関わることでやりがいや手ごたえを感じ、母語やご自身への自信を高めるきっかけになるようです。

 このほかに、目黒区内にある大使館の協力を得て東京オリンピック応援動画を制作したり、東京都人権啓発センターの依頼を受け、都内の小学校において外国人の方々と一緒に授業に参加し、他国の文化紹介や多言語読み聞かせを通して、互いを尊重する大切さを伝えています。

地域のグループと協働して作成した動画「オリンピックでケニアを応援しよう」。国の基本情報、その国の応援のことば、関連する絵本等を紹介している。
地域のグループと協働して作成した動画「オリンピックでケニアを応援しよう」。国の基本情報、その国の応援のことば、関連する絵本等を紹介している。

社会全体で、「母語を大切にすることを応援」してほしい

 外国人だからという理由で困っているのは、ことばの壁、制度の壁、心の壁の3つの壁です。

 ママからは、子育て情報が入手できない、子育て文化がわからない、友達がいない、在留資格のため働けず母国でのキャリアが活かせない、母国との往来で金銭的負担が大きい、家族の支援が得にくく母国から離れている不安が大きい、二つの文化で子供を育てることが困難、という悩みが挙げられます。子育て広場のような場所に出かけても、なかなか話しかけてもらえず孤独を感じることがあるそうです。

 母国の文化を子供に伝えるということは、一個人だけでなく、社会が応援しなければ実現が難しいことなので、上記の問題の解決方法のひとつとして当会が役立てると思います。

 また、国際化が進む昨今、子育て支援策だけに限らず、外国人にわかりやすい日本語の情報表記をもっと進めることが大切だと考えています。

目黒区発行の絵本2冊が多言語デジタル化され、その言語数は最大12カ国にのぼる
目黒区発行の絵本2冊が多言語デジタル化され、その言語数は最大12カ国にのぼる
制作、翻訳、音声の協力者を求めている作品
制作、翻訳、音声の協力者を求めている作品

幅広く協力者を募り、多言語電子絵本の量・質ともに充実をはかりたい

 多言語電子絵本については、日本文化を伝えられる「かさじぞう」、「はなさかじい」、「つるのよめさま」、教科書で有名な「ごんぎつね」の多言語化を目指しています。

 ただ課題も多いのが現状です。現在、YouTubeで公開していますが、広報が難しいためなかなか広がりにくく、本当に必要な方に届けられません。

 また、主な制作協力者は当会に参加している方々ですので、言語に偏りがあり、制作協力者が不足しているという悩みもあります。全国にもっと制作協力者が増えれば、作品数と言語数が増え、質もよくなっていきます。今後も制作、翻訳、音訳ができる方を広く探していきたいと思います。

 さらに、法的な問題として、国内外ともに、著作権フリーの作品を見つけることが困難な状況です。新しいオリジナル絵本もよいのですが、長く子供達に愛されているお話を多言語化したいと思っています。しかし、著作権の問題は作品数を増やしにくい原因となっています。

 子育て支援については、行政と区民の協働をもっとバランスよく進めたり、図書館の多文化サービスを充実させるために活動したいです。外国人の永住者数は増加しつつありますので、多言語絵本をとおして、親子にやさしい多文化共生社会を作るお手伝いをしていきたいです。


注)ディスレクシアとは、会話(話し言葉の理解や表現)は普通にでき、知的にも標準域にありながら、文字情報の処理(読み書き)がうまくいかない状態のこと。
【参考HP】一般社団法人日本ディスレクシア協会


多言語絵本の会RAINBOW
http://www003.upp.so-net.ne.jp/ehon-rainbow/
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