とうきょう子育てスイッチ 子育てマガジン

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地域で芽生えた先駆的な支援策や注目の取り組みを取り上げ、取材して紹介します。

おしごと体験を通して、子供が考え、感じ、がんばった過程を大切にしたい

夢★らくざプロジェクト(品川区)

夢らくざプロジェクト高田亮

プロフィール

1973年広島県生まれ。1996年早稲田大学社会科学部卒業後、10年以上にわたって複数の広告代理店に勤務。2011年法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科を修了し、夢★らくざプロジェクトを立ち上げる。中小企業診断士の資格を持つほか、淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科非常勤講師も務める。

偶然、企画したイベントから誕生した「夢★らくざプロジェクト」

夢★らくざプロジェクトの立ち上げの経緯を教えてください

大学卒業後、10年ほど広告代理店に勤めていました。広告を見るのは消費者ですが、実際の仕事の相手はクライアント企業の担当者。その先の消費者一人ひとりのことまで考える機会は、あまりありませんでした。でも次第に、何かを必要としている人に対して、直接アプローチできる仕事をしたいと考えるようになったんです。そこで広告代理店を退職し、中小企業診断士の資格を取ったり、ビジネススクールに通ったりしました。ちょうど大学院修了の年、2011年のゴールデンウイークに東日本大震災の影響もあり、イベントが中止になったことで空いている会場があったんです。せっかく空いている会場があるのであれば何かやろうということになり、開催予定日の2日目がこどもの日だったこともあって、子供向けの職業体験イベントを開催しました。
企画を立ち上げたのが4月、当日まで1カ月弱しかなく、人も集まるか心配でしたが、世の中的にいろいろなイベントが自粛されていて出かける雰囲気でもなかったところに、役に立ちそうなイベントがあるというのが受けたのか、大きな反響がありました。イラストレーター、美容師、テレビ俳優、ネイリスト、クレープ屋さんなど、10種類くらいの職業コーナーを用意し、2日間で延べ280人の子供たちにおしごと体験をしてもらうことができました。開催後のアンケートで、「こういう経験は必要」「子供に夢を見せられるのはいい」といった意見もいただき、「もしかしたらこれって、子供たちに必要とされていることなのかな」と思って続けたのがきっかけです。
夢が集まる楽しい場にしたい、ということと、仕事っぽいイメージがありそうだということで「楽市楽座」の楽座をとって「夢★らくざプロジェクト」と名付けました。

「おしごとなりきり道場」「おしごと弟子入り道場」はそれぞれどんな特徴があるのですか?

「おしごとなりきり道場」の方は、イベント会場などを借りて開催しています。商業施設や学校で開催することもあります。講師の人にもその会場に来てもらい、職業体験を提供する形式。いわゆる会議テーブルが並んでいるような場所で行うものです。ただ、世の中の仕事を見てみると、テーブルが並んでいる場所で体験できるようなものばかりではありません。
それで始めたのが、「おしごと弟子入り道場」、簡単にいえば職場体験です。カフェでケーキの盛り合わせやラテアートをして提供する体験をしたり、工業用のヒーターを作っている工場に出かけたり、東京トヨペット様に協力していただきカーディーラーの体験をしたりしたこともあります。

行政による支援サービス
おしごと弟子入り道場で、カーディーラーに弟子入り! ユニフォームや道具も本物と同じです


なりきり道場や弟子入り道場を通じて「自分のやりたい夢」に出会う

最近は昔にはなかった職業も増えています。紹介する仕事の内容は変わってきていますか?

最初は前職のつながりからフリーランスの講師に依頼することが多かったのですが、今は企業と取り組むことの方が増えています。世の中の流れみたいなものも意識して、6月に品川で開催した「おしごとなりきり道場」ではシステムエンジニアを取り上げました。10月14日に予定している墨田区錦糸町のイベントではロボットクリエイターを紹介する予定です。メディカルイラストレーター、パーティープランナーなど、以前はなかったニッチな職業も取り上げています。

特に力を入れている仕事やカテゴリはあるのですか?

そこは逆に偏らないようにしたいと思っています。職業によっては、もしかしたら10年後、20年後にはなくなっているものもあるかもしれない。なので、やりたい仕事を見つけるというよりは、体験を通じて「人を喜ばせる仕事がしたい」とか「モノづくりを極めたい」とか「人を幸せにしたい」といった夢を見つけてほしい。その夢を実現するにはどういう仕事があるのか、というふうに、体験から可能性を広げていくことが大事だと思います。
以前、あるイベントで、希望する職業は満員で参加できず、ジュエリーデザイナーの体験をした男の子がいました。小学校高学年のその男の子は、体験後、「ジュエリーデザイナーなんて女の人がやる仕事だと思っていたけど、やってみたら面白かった。仕事には男も女も関係ないんだということが分かった」という感想を寄せてくれました。たまたま体験した職業が興味とずれていても、それが新しい興味になることもあります。

子供たちが楽しめる手作りおもちゃ
おしごとなりきり道場~メイクアップアーティスト~ 子供たちの目がキラキラと輝きます!


夢★らくざプロジェクトさんでは、和のおしごとがたくさん紹介されていますね。

東京の谷中に、私の親戚のお寺があるんですが、お寺でやってみたら面白そうだなと思い、話をしたら貸してもらえることになったんです。せっかくお寺で開催するなら、お寺の雰囲気に合いそうな和の職業を集めてみようと思ったのが始まりです。それまで「おしごと」と言っていましたが、どうせなら名前も変えようということで「和(わ)しごと」に。よく使われる「私ごと」の「私」を職人ぽく「わし」として、それと、「和(わ)のしごと」の意味を組み合わせた造語です。
初回は、日本画家、江戸刷毛職人、絵馬師、印章彫刻師、華道家、茶道家などを講師として招きました。今の子供たちの中には、畳の部屋に上がる機会がない子もいます。お寺みたいな広い畳の空間に上がるだけでも、非日常的な世界を味わえてテンションが上がるんです。鎌倉の建長寺で開催したこともあります。その時は、鎌倉にまつわる仕事でまとめました。

その土地の産業を体験するツアーや起業体験など、新たな企画も登場

全国展開も視野にいれていらっしゃるのでしょうか

はい。今は1都3県での開催が多いですが、その場所ごとに地域性を持たせたものもやってみたいです。例えば、10月には埼玉県行田市の商工会議所と組み、行田の町やB級グルメ、町の特産品などを学べるツアーを企画しています。「道場ツアー おしごとの旅 〜行田へGO〜」と名付けたんですが、行田の特産である足袋、藍染め、おせんべいづくり、B級グルメの「ゼリーフライ(銭フライ)」などを体験して、行田という町について知るツアーです。全国各地で、そこでしかできない体験をすることができたら面白いと思います。

これから特にやっていきたいことはどんなことですか?

企業と組んだイベントをもっと開催していきたいと思っています。一つは「おしごとおこし道場」、もう一つは「道場やぶり おしごとチャレンジ」といいます。どちらも、職業体験というよりは企画立案、起業体験のようなものです。
「おしごとおこし道場」のほうでは、銀行と組んでお店作り体験みたいなことをやりました。事業企画書を作り、銀行に持ち込んで融資を得て、材料を仕入れ、商品を作って売る、といった体験です。
「道場やぶり おしごとチャレンジ」は、課題やテーマを設けて、それを解決・達成していくことを目的としたおしごと体験です。この間は、東京ソワールさん、文化ファッション大学院大学さんの協力を得て、ファッションブランドを立ち上げるという体験イベントを開催しました。1日目は、企画、コンセプト作り、ブランド名などを決めて机上でデザインを作り上げます。2日目は、実際にそれを形にするんです。企業に素材を用意してもらい、アイロンやミシンを使って普通のシャツの袖を切ったりレースを付けたりして、1着のドレスに仕上げます。最後にそれを着てファッションショーをしました。このときは、25人の枠に100人くらいの応募がありました。これからは企業と個別に組んでプロジェクトを立ちあげ、職業をより深く知る機会を作っていきたいと思っています。いろんなジャンルや業界でやっていけたら面白いと思います。

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道場やぶり おしごとチャレンジ ~ファッション大作戦~ リメイクとは思えない、オリジナルな作品がたくさん出来上がりました!


さまざまなイベントがありとても楽しそうですが、今、課題に感じていることはありますか?

こういったイベントには、親御さんがある程度こういうことに興味を持っている、教育熱心な環境にある子供たちが集まりがちなんです。でも、そういった子供たちだけに体験の機会を提供するのが私の思いではありません。なりきり道場などに足を運べないけれども、体験の機会を求めている子供たちに対してもアプローチしていきたい。そういった意味では、これからはもっと学校や児童養護施設などで開催して、子供たちに対して広く平等に仕事に接する機会を提供することができたらいいなと思っています。

体験の過程で子供が自ら考え、感じ、がんばったことを大切にしたい

最後に、このプロジェクトをやっていくうえで大切にしていることを教えてください

都内にも、お仕事体験ができる施設やサービスはたくさんあります。設備的なハード面ではかないませんが、夢★らくざプロジェクトは、教えてくれる人が実際にその職業で活躍している人だというところが強みです。「どうしてその仕事をしているのか」「仕事に対する心構え」などのソフト面では、充実しているのかなと思っています。
ものづくり体験やロールプレイングなど、職業の体験の仕方はいろいろあります。その場で「いいものができてよかった」とか「ロールプレイングして楽しかった」と感じることも大切ですが、それだけで終わらせたくないんです。その作品が出来上がるまでの過程や、ロールプレイングするなかで、本人が何を考えて、どういったことを意識したか、何を感じながら体験したかっていうところが一番大事だと思います。ですから、体験して作ったものがみんなと同じじゃなくても、もちろんいい。うまくできなかったとしても、それはそれでいい。ちゃんとそこに心があればいいと思っています。講師の人にも、必ず、子供たちが自ら考える要素を入れてください、個性が出るようにしてくださいというお願いをしています。
誰がやっても、ある程度うまくいくような体験である必要はない。出来上がりを褒めるのではなく、がんばったことやそこまでの過程を褒めることが大事だと思っています。

※掲載している写真は過去のイベントのときのものです(プロフィールを除く)
写真協力:夢★らくざプロジェクト(プロフィールを除く)