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「防ぐ」という新しい視点で、子供たちをいじめから守りたい

株式会社マモル(新宿区)

株式会社マモル 代表取締役社長・齋藤有子


プロフィール

株式会社マモル 代表取締役社長・齋藤有子
音響機器メーカーにてコンテンツ企画、マーケティングなどに従事した後、IT企業にてモバイルコンテンツ企画、プロモーションを経て事業開発ディレクターとして独立。ワーキングマザー向けメディア立ち上げ等に関わりながら、多くの保護者と接点を持つ中で、以前から問題意識のあった「いじめ」を少しでもなくしたいという思いを強め、2018年株式会社マモルを設立。自身の強みであるwebマーケティングのノウハウをいかし、いじめを未然に防ぐシステム『マモル』を開発する傍ら、いじめや虐待関連のイベントに登壇、執筆などを行う。

事後対策だけでなく、未然に防ぐ予防策が必要

いじめ予防のシステム開発など、現在の活動に取り組むこととなったきっかけを教えてください。

2人の子供を持つ親として、社会問題である「いじめ」は何とかすべきだろうと常々思っていましたが、子供が成長するにつれてさらに「他人事ではない」という思いが高まりました。私はもともとIT関連の仕事をしており、働くママや中高生向けのメディアに関わる中で、多くのママたちからいじめの相談を受けたり、学校内での話を聞いたりする機会があったことも、問題意識が強くなった要因です。「自分にできることは何か」と思ったとき、仕事にしていたITを使っていじめを防ぐことができるのではないかと考え、株式会社マモルを立ち上げました。

「防ぐ」という観点から、いじめ対策をしようと思われたのはなぜですか?

いじめ対策や対処方法は世の中にたくさんありますが、その多くはいじめが起こった後にどうするかという事後対策のもので、「予防」という視点が抜けていると感じていました。いじめの始まりは「からかい」や「いじり」が多く、その後時間が経つことでエスカレートしてしまうケースがよくあるように感じます。いじめ自体を完全になくすことは難しくても、できるだけ早く周囲がいじめに気付いて対応できれば事態の深刻化を防げるのではないかと考え、「予防」にフォーカスした『マモル』というシステムを作りました。

齋藤さん自身の強みであるITと「いじめ予防」という新たな目線をかけ合わせて『マモル』のシステムが生まれた。
齋藤さん自身の強みであるITと「いじめ予防」という新たな目線をかけ合わせて『マモル』のシステムが生まれた。


いじめに関わるすべての子供たちが、何でも言える環境づくり

『マモル』とは、どのようなシステムなのですか。

インターネット上のサイトで、子供はいつでもアクセスしていじめで悩んだときに役立つコンテンツなどを見ることができます。また匿名で、いじめの通報ができたり、困っていることを知らせたりすることもできます。学校単位で申し込んでいただく形で、導入した学校にはサイトのアクセス行動履歴から、子供たちの間でどんな問題が起きているのか解析したデータをフィードバックすることができます。学校では今まで気付きにくかったいじめの予兆を知ることができ、対応方法を考えるきっかけや参考材料にもなります。システムの本格稼働はまだですが、現在は小学校や子供たちのコミュニティーへテスト導入をしたり、学校の先生方からアドバイスをいただいたりしながら、改良を重ねているところです。

サイトの中はどのような内容になっているのですか?

『マモル』のサイトは、パソコン、スマホ、ゲーム機などから24時間365日いつでもアクセスすることができます。3択で今の気持ちを選んだり、感じていることや困っていることを自由に書いたりもできます。3択だけなら1分もかからず入力できますし、先生にも名前を知られない完全匿名のため、子供たちの率直な「今」を引き出しやすくなっています。いじめに関するアンケートは各学校でも実施されていますが、実施頻度が少なく、子供の環境は短い期間でガラッと変わることもあります。人間関係やいじめの状況も変化しますから、リアルタイムで状況が分かるという点はウェブ上のシステムのメリットだと思っています。また、学校でのアンケートの場合、周りの目が気になったり、筆跡で本人と分かってしまう不安から、本当のことを書きづらい子供が多く、結果としていじめの実態が表面化しづらい現状があります。そのような問題を解決できるのもインターネットのシステムならではだと思います。

サイトを作るにあたり、配慮されたことはありますか?

例えば、サイトの中では「いじめ」という表現は使わず、「困ったことはありますか?」というような聞き方をしています。「いじめ」と書いてしまうと、「これっていじめなのかな」「いじめじゃなかったら言っちゃいけないのかな」と入力を萎縮してしまう子供もいるからです。いじめに発展する前段階である「日常の違和感」や「ちょっと気がかりなこと」なども含めて、「何でも言っていいんだよ」というスタンスで、質問の言葉選びや表現の仕方を考えています。また、いじめをされた子だけでなく、してしまった子、見た子、いろいろな立場でいじめに関わった子供たちの気持ちをくみ取れるような質問にしています。例えば、周囲で起きた嫌なことを聞く3択では、嫌なことを「された」「した」「見た」の中から選べるようになっています。

いじめを見ている子供も、その事実を連絡することができる。

私は、いじめを周りで「見ている」子供が、いじめ予防にとって大事な存在だと考えています。例えば、「みんなで無視しよう」というようなことが子供同士ではありますよね。そんなとき「こういうことはやめようよ」と言える子が1人でもいた場合、事態が大きくならなかったことが自分の経験上たくさんありました。周りの人が「NO」や「間違っている」と言える場があれば、いじめはきっとエスカレートしないと思うのです。でも、現実は簡単ではありません。わざわざ先生に伝えるのも勇気がいります。辛い思いをしている子供はもちろん、気になっているけど言い出せない、どこに言えばいいか分からないと悩む子供も、気軽に知らせることができる場を作ることで、いじめの深刻化を防げるのではないかと思います。

「いじめにいろいろな立場で関わる子供たちが、何でも言える環境を作ってあげたい」と齋藤さん。
「いじめにいろいろな立場で関わる子供たちが、何でも言える環境を作ってあげたい」と齋藤さん。


学校、保護者、地域、みんなでいじめを防ぐシステムに

いじめ予防システムは、小学校へのテスト導入を控えているそうですね。

今春に都内の小学校でテスト導入をする予定で準備を進めています。システムを導入すれば、子供のちょっとした変化に気付けるだけでなく、先生方の負担を軽減することもできます。導入が開始されたら、先生方からの意見を反映できるよう、機能をカスタマイズし改良をしていきたいです。校内でいじめがある場合、先生が認知したときにはすでに事態がひどくなっているケースが多いそうです。もっと早い段階で知って対応したいと思っていても、毎日一人一人と向き合うのはとても難しく、さらにSNSなどを使った表面化しづらいいじめも増えています。テスト導入を通じてシステムをできるだけ現場に寄り添ったものにしていきたいと考えています。

解析データを、学校ではどのように活用して欲しいですか?

ただシステムを入れただけでは、いじめ予防はうまくいかないと思っています。そのあとの対応をどうするかが大事です。いじめの通報やいじめの予兆があるという解析結果は、学校や先生方が次にどうアクションすべきかを考える糸口として活用していほしいと思っています。データによって「子供たちに何か起こっているのか」とアンテナを立てるだけでも、今まで見えなかったことが見えてくると思うのです。また、いじめ予防は学校だけがするものでなく、私たちのような外部の人間や保護者、地域などと連携しながら進めていくものにしたいとも考えています。解析データを今後どう活用していくのがよいか、さまざまな方と話し合いながら検討していきたいです。

 育休中ママも会議に参加
株式会社マモルでは、育休中ママのインターンの受け入れも行っている。会議ではいじめに関心の高いママの意見が活発に交わされ、いじめ予防のヒントも多いそう。


ネットを規制するのではなく、上手に利用できる教育を

現在の活動以外にも、取り組んでみたいことはありますか?

『マモル』のようなシステム以外にも、いじめ予防にはいろいろな対策が考えられます。例えば、多様性を受け入れたり、いじめをどうすれば防げるか子供たち自身に考えさせるなど、教育を通じていじめに悩む子供たちをサポートする活動にも関われたらと思っています。現代のいじめはネット上のものが増えて解決が難しいと言う方もいますが、子供自身がいじめについてもっと理解を深め、「いじめはいけないこと」だと気づければ、ネット上でも学校内でもいじめは防げると思います。そのために、「こういう言葉を人に言ってはダメ」というような根本的な教育や、ネットマナーを伝えていく活動も必要だと思いますね。今の子供たちとインターネットは想像以上に身近なものになっています。「いじめがあるからネット利用を規制しよう」というのではなく、安全な利用方法や危険などを教えることが大切だと思います。子供たちへヒアリングした結果、いじめで悩んだときに「ネット検索をする」という回答がとても多かったんです。ネットは怖さもありますが、現代の子供たちにとっては解決策を探せるツールでもあるんです。いじめで困ったらこのサイトをみれば解決できるようなコンテンツの提供や、サイトをさらに充実できたらと思っています。

これからの展望をお聞かせください。

いじめについてさまざまな意見があると思うのですが、私は学校で起こるトラブルや人間関係の問題をすべて否定的、悲観的には捉えていません。問題に出会ったり、解決しようと考えたりするのは子供の心の成長につながることもあると思います。ですが、ニュースで報じられるようないじめは人間としての学びの部分を明らかに超えてしまっています。集団生活の中でいじめの「芽」は残念ながら一定数発生してしまうのですが、、出始めたら深刻な事態になる前に摘み取るというのが「いじめ予防」のイメージです。周りが気付くのが遅くなればなるほど、子供たちが傷つき、苦しむ時間は長くなります。これからも『マモル』のシステムやいじめ防止の活動によって、子供たちを少しでも救っていけたらと思っています。

写真協力:株式会社マモル様

https://mamor.jp