とうきょう子育てスイッチ パパの子育て

パパの子育ての、今とこれからを語ろう!

Part8 青野慶久さん フォーカスは、「イクメン」から「イクボス」の時代へ

青野慶久さん

サイボウズ株式会社代表取締役社長

1997年愛媛県松山市でサイボウズ株式会社設立。2005年、代表取締役社長に就任。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率の大幅な低減を実現。3児の父として、社長自ら3度の育児休暇を取得。

これからはイクボスの真価が問われる

父親の育児に関する意識は、変わってきたと思われますか?

第一子が生まれた5年前は、『イクメン』という言葉が出てきたかどうか、というころ。周囲には「父親が育児なんて…」という感じもありましたが、今はイクメンの知名度も上がり、「父親も子育てするよね」という雰囲気。若い世代は、子育てに参加したい男性が多数派になってきた気がします。

今は、むしろ、フォーカスは『イクボス』に移ってきました。現実には、まだ「子供の運動会で休むようなやつは、部下として認めん」なんてことを言っちゃうような上司がいたりします。しかし、上の世代はそういう価値観の中で育ってきたのだから、それが当然と言えるかもしれません。今後は、価値観の違いによる軋轢が、フォーカスされていくでしょう。

『共に働き、共に育てる』価値観にシフト

父親の子育ての課題は?

男性の子育てが一般化してくると、イクメンで疲弊するという現象も…。『男は大黒柱であるべし』という意識が強いと、男性は長時間労働をしながら、かつ、イクメンもしなければならない。妻に「経済的支柱はあなただよね」と言われると、夫の負担が大きくなりすぎて大変ですよね。

夫婦ですから、夫も妻も両輪で変わっていく必要があります。父親に限らず、夫婦の課題として、『共に働き、共に育てる』という価値観にシフトすることが求められます。
共に育てるためには、労働時間を短縮せざるを得ない?

そもそも、長時間労働の必要が本当にあるのでしょうか? 人間、1日に集中できる時間は、そんなに長くありません。会社に長くいればスキルや成果が上がるかといえば、それも疑問です。
それよりも、労働時間を短縮し、子育てを通して社会と接点を持つことで得られるものが多いはず。少子化の問題、医療の仕組み、教育の問題、自治体の動き…など、会社の中では得られなかった知識が得られます。
僕自身、子供が生まれるまでは会社しか知らなくて、病院なんてほとんど行ったことがありませんでした。でも、子供が生まれると頻繁に行くようになり、「最近の病院は薬を出してくれないんだ~。いつから処方箋を薬局に持って行くシステムになったの?」なんて、そんなことから学び始めた覚えがあります。

経営者としても、以前はIT業界の枠内で判断していたのが、今は『社会にとって、どんな影響を与えることになるのか』という視点で意思決定できるようになりました。

社会全体で子育てをする時代

企業での働き方は、どう変わると思いますか?

働き方も子育ても多様化していくべき。100家庭あれば100通りの答えがあっていいんです。『男性だから、女性だから、こうあるべき』といった考えに、全くとらわれない流れになっていくといいですね。
これからは、社会で子育てしなくてはいけない時代。『社会として、出生率をある程度維持しないと、市場消滅に向かっていく』という前提を共有すべきです。企業でも、子育てしている人をみんなで支える環境づくりが求められます。その環境づくりが、多様化です。

多様性のない職場では、イノベーションが起きませんから、企業自体にとってもメリットとなるはずです。
そうした働き方の変化は、今後加速するでしょうか?

まだまだ企業は遅れているな~と感じます。我が家と文京区の成澤区長の長男は、実は誕生日が一緒なんです。先に成澤さんが育児休暇を取られたわけなんですけど、その後、地方自治体の首長が次々と育児休暇を取り、それが当り前になりつつあります。でも、企業は違う。僕が5年前に育児休暇を取ってから、上場企業の社長で取った人は 聞いたことがありません。
ただ、2014年あたりを転換点に、変化の兆しはあります。ハードワークを強いるような会社だと「ブラック」と言われて、従業員が去り、労働力が確保できないという現実に直面しました。多くの経営者が、このままではまずいということに気づき始めています。働き方を変えていかないと、優秀な人材が働きやすい会社に移ってしまう。今、サイボウズには転職希望者がたくさん来ていますよ(笑)

少子化が進む今、労働力をいかに確保するかが経営戦略上とても重要。人の流れこそが経営者に危機感を与え、変わらざるを得なくなってきています。そろそろ、上場企業社長の育児休暇が出てくるのではないでしょうか。

人事制度も多様化する

サイボウズの人事制度はどのようなものですか?

『100人いれば100通りの人事制度 があってよい』という方針。社員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬が実現されればよいという考え方です。人事制度は変えるものではなく足すもの。 社員には、「自分が欲しい人事制度があったら、ちゃんと言え」と、自立を求めています。例えば、「在宅勤務をこうして欲しい」という要望があれば、ちゃんと発言して、周りに議論を持ちかけて、動かしていく。そして、新たな制度を生み出す。ある日、突然降ってきた制度ではなく、みんなが議論しながら理解して作る制度なので、うまく運用されやすいという利点もあります。

人事制度が多様だと、管理が大変では?

グループウエア(組織内での情報共有のためのソフトウエア)という便利なツールがあるわけですから、それを活用しています。ツールなくして人事制度を変えることはできないでしょう。

企業が働き方を変えるために、必要なことは?

基本は根性論だと思います。例えば、長時間労働をやめたいなら、定時に帰ればいいだけのこと。要はやる気の問題。それをいろいろ理由をつけて帰らないから、変われないんです。部下が帰らないのなら、上司が背中を押して無理やり帰らせる。ただ、上司もそれまでは長時間労働を推進していた立場だから、説得力がなかったりする。それなら、僕みたいな外圧をうまく利用して変革を進めればいいのだと思います。