イベントレポート

高校生への『父親授業』を実施!当日のレポートを掲載しました!

2008/11/05 都立西高校

2008年11月5日、杉並区にある都立西高校で一風変わった授業がありました。対象は1年生331名。全員が視聴覚ホールに集まり、NPO法人 ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんの講演を聞きました。タイトルは「父親であることを楽しもう!」。まるで子どもが生まれる直前の人に向けた両親学級や父親学級のようなタイトルですが、れっきとした高校生に向けてのお話です。

高校生への『父親授業』 高校生への『父親授業』

▲ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さん。

父親ってどんな人?

高校生対象の父親授業と聞いて、高校生にはまだ早いと思う人もいるかもしれません。でもそうでしょうか。子どもの頃に将来の夢を聞かれて、「お嫁さん」、「お母さん」になりたいという女の子はいても、「お婿さん」、「お父さん」と答える男の子はまず見かけません。たぶん、男性が父親になることを意識するのはパートナーが実際に妊娠してからだと思います。

もちろん、父親になる勉強はほとんどありません。ある日、突然、数か月後に父親になるとわかり、そこから必死に準備して、手探りで父親になっていきます。身近にモデルとなる人もあまりいませんし、父親といえば、自分を育てた父親くらい。好き嫌いやいい悪いは別にして、自分が父親になったときの振る舞いは、自分を育ててくれた父親を参考にするしかない現状があるのです。自分の父親像が本来求められる父親の役割からずれていても、それしか知らないので違うことにも気づかず、内側に秘めた愛を発揮できずにいるお父さんはたくさんいるのです。
日本の父親支援をしてきた安藤さんは、若い男性が父親のことを知る機会がほとんどないことに危機感を持っている一人です。男性の育児参加を促しよりよい家庭をつくっていくためには、現役の父親世代と同時に、未来の父親となる大学生や高校生へも、父親のことを学ぶ機会をつくっていく必要があります。そこで、子育て応援とうきょう会議、都立西高校、Fathering Japanの三者が協力して、日本でも珍しい高校生に向けの父親授業を実施しました。

父親のことを知ろう

安藤さん自身、高校生に向けて父親授業をするのは初めてです。安藤さんだけでなく、西高校の先生方も、そして、当の高校生もこのような授業は初めて体験します。準備していた大人は、どのような反応が返ってくるのかもわかりませんでしたし、高校生自身も、どんな話が話になるのか予想もつきません。父親なんてまだまだ先と思っている人が大半だったでしょう。つまり、開始直前は、全員がどのような授業になるのか、今ひとつイメージがつかめていない緊張状態だったのです。会場は、全体的にざわざわして、どことなく落ち着かない雰囲気が漂っていました。

安藤さんの講演は、自分がお父さんの育児支援事業をするNPOを立ち上げたきっかけから話を始め、自分が将来父親になることを意識し始めたのは14歳の頃だったことを振り返りました。さらに、現在のお父さんが子育てをしてく中でどのようなことに悩んでいるのか、そして、本来、父親は子どもに何をしていく存在なのかと話を続けていきます。会場内は、話が進むにつれて静かになっていき、安藤さんの話をしっかりと受け止める空気になってきました。また、安藤さんが地域の学校の統廃合問題に直面したときに、同じ立場の父母に呼びかけて、意見書のとりまとめ、統廃合の見直しへこぎつけたことを例に挙げて、子育てに積極的に関わることで、地域社会への貢献ができ、新しい仲間ができるなど、自分の人生に広がりができるという話も飛び出してきて、高校生たちは自分の子どもや地域のためにがんばっているお父さんのイメージをもちながら集中して聞いていました。

高校生への『父親授業』

▲NPO立ち上げのきっかけを熱く語る安藤さん。

平和を守るヒーローに

話は、お父さんの育児参加に戻っていきます。これから、お父さんが子育てをするのがもっと当たり前になってくると、子育てのできる男性がもてるようになるという話をし、高校生が自分が将来、大人になったときに実際に子育てをしてみたいかどうかを問いかけていきました。そして、改めて、現在のお父さんたちが抱えている問題のひとつとして、マニュアル化の例を挙げて話が進みます。今は何でもマニュアルがあってスピードが求められるが、子育てにマニュアルはないし、子どもも早くは育たないので、じっくり、楽しみながら育てていくことが大切であることを伝えました。「お父さんは家族のヒーローであるべきだ。家族を愛し、守るお父さん。そういうお父さんになってください」と締めくくり、授業は終わりました。

高校生のときから自分が将来、どんな家庭をつくりたいかを考え、準備し、家庭を築いていくという道のりは、一人ひとりが平和で充実した人生を送ることにつながります。ヒーローとして家族を愛し、家族からも愛されるお父さんのいる家庭は平和になるからです。平和で幸せな家庭をつくることは個人的なことで、小さなことと思われがちですが、実はとても大事なことです。一つひとつの家庭の平和が広がっていけば、国や世界が平和になっていきます。「我が家の平和を守るヒーローは俺だ」と自覚するお父さんが増えれば、平和が広がっていくと思います。大人の入り口に立った16歳の段階で、こういう話を聞いて、父親のこと、パートナーのこと、そして将来の家庭のことを意識することは、私たちが思っている以上の効果を生む可能性を感じました。

--高校生からの感想コメント--

父親授業を受けた高校生に一人ひとりにコメントを書いてもらいました。寄せられたコメントの中からいくつか紹介します。

正直、自分が父親になるときのことはまだ遠すぎて、何も考えていなかったが、うっすらと将来もとめる父親像が今日の話を聞いて見えてきた。それはパートナーの意見を尊重し、仕事と家庭を両立できる父親になりたいと思うようになった。難しいとは思うけれど、実現できるようにしたい。(男子)

これからの日本は、男が働き、女は家庭という考え方を持っていたらよくなっていかない、と前から思っていました。男の人も女の人も、自分にあった人生を送ることで、充実した毎日を過ごすことができると思うので、過去の概念にとらわれずに、女の人も積極的に仕事をして、男の人も積極的に家事に取り組み、また、それができる社会環境を作っていければいいと思いました。(男子)

今日の話で、自分のパートナーとなる人についていろいろと考えさせられました。私自身は結婚をしても、子どもが生まれても仕事を続けたいと思っているので、安藤さんの話について今から考えていかなければいけないと思いました。自分の子どもの父親を決めるのは、私自身なのだから、相手にどうしてもらうかではなく、どのような相手をパートナーとして選んだり、支えたりするかということをもっと真剣に考えたいと思います。また、自分たちの力で学校を守るという話を聞いて、とてもすごいと思いました。自分たちの力で大きなことを変えるということを私も出来たらいいと思いました。(女子)

私が一番思ったのは、男性が家庭を第一に思ってくれることが、女性も子どもも望んでいる、ということです。仕事に励む父親はやはり憧れだけれど、仕事だけでなく育児にも参加することで、この人が自分の父親なんだ、と子どもを安心させてあげることが出来ると思います。また、父親みたいになりたいと思う子どもが増えればもっといい社会になると思います。(女子)

高校生への『父親授業』

▲331人の1年生が集まった視聴覚ホール。

授業を終えて安藤さんからのコメントです

正直、高校1年生(16歳)にこの話は早いかなと思っていましたが、多くの学生が真剣に受け止めてくれました。お父さんと年齢がさほど変わらない私の話を、現在の自分の家庭状況を省みながら、あるいは自分が大人になったときのことを想像しながら耳を傾けてくれたようです。
授業直後に書いてもらったコメントペーパーを読んでも、中には「先のことで現実味がない」「ピンとこない」「実感わかない」という意見もありましたが、将来をしっかり見据え、自らのキャリアプランや男女平等の必要性、またそれを認め合う社会意識の形成について堂々と意見を述べている学生が男子にも女子にも多数いて感心しました。

願わくは彼らが社会に出てそして10~20年後に親になったとき、きょうの父親授業のことを思い出してもらい、現代に多く見られる仕事一辺倒の生き方ではなく、親としてまた次世代育成者としての自覚を持ち、それぞれのやり方で育児や地域活動を楽しんで欲しいと思います。
またこれから大人になる段階で、子どもを産み育てやすい社会や男性も女性も既定の役割に縛られない自由で豊かな共生社会を自分たちこそがこれから作っていくのだ、という当事者意識を持ち続けてくれればうれしく思います。

今回の父親授業では、16歳という「次世代のパパ・ママ」たちが、意外にも現代の子育てや社会の在り方に対して意識が高く、また冷静さと情熱を兼ねて見ていたことが分かり、またその眼差しに触れられたことで私は未来への希望が持てました。
これからも機会があれば、高校や大学にて父親授業を展開し、若い世代に「父親ほど素晴らしい仕事はない」「父親であることを楽しもう」というメッセージを伝えていければと考えています。

NPO 法人ファザーリング・ジャパン代表理事  安藤哲也(あんどうてつや)氏

明治大学卒業、出版社に入社。30歳で書店員に鞍替え。その後「オンライン書店」、NTTドコモ等を経て2004年、楽天ブックス店長に就任、2007年10月退社。
2006年、楽天在籍中に父親の子育て支援・自立支援事業を展開するファザーリング・ジャパンを立上げ、代表理事に就任。子どもの通う公立小学校でPTA会長も勤める。
11歳(女)、8歳(男)、0歳(男)の父。