とうきょう子育てスイッチ 子育てマガジン

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地域で芽生えた先駆的な支援策や注目の取り組みを取り上げ、取材して紹介します。

病気や発達がゆっくりな子どものお母さんたちを、笑顔にしたい!

NPO法人キープ・ママ・スマイリング(中央区)

NPO法人キープ・ママ・スマイリング代表理事・光原ゆき


プロフィール


NPO法人キープ・ママ・スマイリング 代表理事・光原ゆき

大学卒業後、広告や人材派遣等手がける大手企業へ入社。メディアプロデュース、人事業務に従事。先天性疾患を持つ娘を出産後、育児休暇中に亡くした経験から、2014年11月にNPO法人女子カラダ元気塾(現キープ・ママ・スマイリング)設立、理事長に就任。NPO活動を通じて、「病気の子どもや発達に困難を抱える子どもを育てる母親」への支援をさまざまな形で行う。2019年1月よりNPO法人を主軸に活動へ。

お母さんが元気に看病できることは、子どもにとっても重要なこと

キープ・ママ・スマイリングは、どのような経緯で発足されたのですか?

活動を始めた原点は、2人の子どもの付き添い入院を経験したことです。長女は生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に運ばれて手術を受け、約半年間の入院に私も付き添いました。今ではすっかり元気に成長していますが、普通に出産して、復職して…と考えていた自分にとっては想定外の出来事でした。そして、長女が3歳のときに生まれた次女も先天性の疾患が分かり、長女よりも長い入院生活を過ごしました。次女は残念ながら11カ月のときに亡くなったのですが、長女と次女を合わせるといくつもの病院を入退院しながら、かなり長い期間を小児病棟で過ごしました。その中で、自分も含め病児のお母さんたちが置かれている状況を初めて知ったんです。子どもの治療に関しては、どの病院でも全力を尽くしてくださり感謝しかありません。一方で、「病人」ではないお母さんに対するサポートは、かなり手薄になっているのが現状です。大人と違い、子どもは採血一つ取るのにも時間や人手がかかります。看護師さんの手が足りない中で、ミルクを温めて飲ませたり、排泄量のチェックをしたり、体調を先生に伝えたり・・・と、子どもならではのケアや確認を補助するのはお母さんたちです。「チーム医療」とよくいわれますが、子どもを元気にするチームの中でお母さんは重要な一員なんです。それにも関わらず、付添人の食事やシャワーがない、身体を休めるための簡易ベッドは日中片づけられてしまうなど、病院にもよりますが、お母さんたちは決して十分とはいえない生活環境にいます。また、一番頑張っているのは子どもで、どの親御さんも「変わってあげたい」「なるべく一緒にいてあげたい」と思っていますから、自分のことは後回しにして、体調を崩すお母さんもたくさん見てきました。子どもは親の様子をよく見ていますし、お母さんが元気に看病できることは子どもにとっても重要なことです。そこで、小児病棟で子どもに付き添うお母さんたちの環境をよくして、もっと笑顔で子育てできるような活動をしたいと思い、2014年にNPOを立ち上げました。

お子さんに付き添うお母さんが、そのような状況にあるとは初めて知りました。

前職で医療サイトの編集長をしていたことがあり、日本の医療の大枠は分かっていましたが、私自身も当事者になるまで病児のお母さんたちにこんな事情があるなんて知りませんでした。日本の医療にはさまざまな課題があるものの、付き添いのお母さんが病人ではない以上、これは「医療の課題」ではないんですよね。医療の隙間に落ちた課題で、なかなか知られていないことです。長年仕事でメディアを作ってきた者として、これだけ多くの病院でお母さんたちを見てきた自分には何ができるだろう、経験を活かして誰かの役に立てれば、お空に帰った次女も褒めてくれるのではないかと思いました。

お母さんの心をホッと癒す、美味しくて栄養のあるご飯

そこでスタートされたのが、お母さんに食事を届ける活動なんですね。

お母さんたちの困りごとはたくさんありますが、私が一番辛かったのは食事なんです。付添人の食事が出ない病院では、目の離せない子どもを前に「ご飯はいつ買いに行く?」「いつ食べる?」という問題が毎日あります。結局、子どもが眠ったらすばやく買いに行って、検査の合間を縫ってササっと済ますなど、落ち着いて食べたことはほとんどなかったです。そんな中、ある大学病院ではベッドサイドまで私の食事を運んできてくれました。1食700円で、気軽に3食利用できるものではありませんでしたが、とてもありがたかったです。別の大学病院に入院したときは、近くの食堂のご主人が、付き添いママが満足に食事もできない私の話を聞いて、周りのお母さんたちの分までお弁当を届けてくださったこともありました。これも本当に救われました。「美味しいご飯って、こんなに人の心を癒せるんだ」と実感したんです。その後、NPOを立ち上げて、病児に付き添う家族のための宿泊施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」へ見学に行ったとき、滞在する方にご飯を作る「ミールプログラム」のボランティアをされている方々に偶然出会いました。話を伺って、あのときの自分の気持ちを思い出しました。私自身は本当に料理ができないんですが(笑)、料理上手な友達はたくさんいますので、みんなの力を借りればお母さんたちを美味しい食事で応援できるのではと考え、2015年春に初めてのミールプログラムを行いました。

ミールプログラムについて教えてください。

定期的に、国立成育医療研究センターの敷地内にあるドナルド・マクドナルド・ハウスせたがやで、ボランティアスタッフと食事を作っています。お母さんたちは朝から晩まで病棟にいるので、私たちは日中、食堂にご飯を用意しておいて、夜に帰ってくるお母さんたちにそのご飯を食べていただく、という活動です。調理スタッフは大人だけでなく、看護師や栄養士を目指す大学生のほか、長期休みには中高生なども参加してくれています。2018年から聖路加国際病院小児病棟へのサービスも始め、隔月で手作りのお弁当を届ける「ミールサポート」も実施しています。

ミールプログラムには学生たちが参加することも。
ミールプログラムには学生たちが参加することも。


活動には、人気レストランのシェフも参加されていらっしゃるのだとか。

スタッフの知人である米澤文雄シェフに、活動初期からオリジナルメニュー作成や調理指導などでご協力をいただいています。シェフは私たちの活動をよくご理解くださっていて、「疲れたお母さんたちを笑顔にする」料理を毎回考えてくださいます。お母さんたちは、コンビニで食事を済ますことがどうしても多くなるため、野菜が取りづらく、1年中室温が保たれている病院では季節もなかなか感じられません。そこでシェフは、野菜がしっかり取れて季節感のあるもの、夜遅くても食べやすいシンプルな味付けなど、お母さんたちの健康や味覚に配慮した素敵なメニューを作ってくださるんです。シェフが参加されるミールプログラムは毎回大人気で、すぐに調理スタッフの募集枠が埋まってしまうんですよ。

米澤シェフ
米澤シェフ(中央)の美味しくて健康に配慮した料理は参加者からも大人気。


ボランティアの方はどのように募集されているんですか?

Facebookを見て来られる方や、スタッフのつながりで参加される方もいらっしゃいます。活動当初はボランティアの方を集めるのも大変でしたが、今では1回参加すると「楽しかったから、また来たい」と、リピートされる方が多いんです。現在の運営スタッフのほとんどは、ボランティア参加がきっかけの方ばかりなんですよ。活動していて思うのは、「ママだから分かる」わけではないということです。母親の経験がなくても共感して付き添いママの大変な状況を想像できる、そういう方々と一緒に活動できていると実感しています。

小児病棟へ手作り弁当を届ける活動
小児病棟へ手作り弁当を届ける活動も行っている。


お母さんたちからは、どのような声がありますか?

ミールプログラムやミールサポートは、お母さんと直接ふれあう機会はほとんどないのですが、どちらの活動も毎回メッセージカードをいただけるのです。拝見すると、本当にお母さんたちに喜んでいただけているんだな、ご飯って人にパワーを与えられるんだなと感じます。ここでしか治療できない重い病気のお子さんを抱え、地方から来られている人も多くいらっしゃいます。慣れない土地で、いろいろな心配や不安と闘っているご家族からの「食べて元気をもらいました!」「自分も頑張らないと!」といったメッセージに、私たちもパワーをいただいていますし、みんなで応援したいという心を込めて、毎回の食事を作っています。

そのほかの活動についても教えてください。

私たちは、病児のお母さんのほかに、発達がゆっくりなお子さんのお母さんもサポートしています。その一つが「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」で、多動性やパニックなどを持つ子どもたちを歓迎してくれる美容室を探すことができます。発達がゆっくりな子どもが一人でも安心して行ける美容室があるというのは、将来的にお子さんが自立する上でも大切なことだと思います。今後は、美容院の掲載店を増やしつつ、病院、飲食店、宿などジャンルも拡大していく予定です。また、映画の上映会や講演会なども年に数回行っていますが、これからは活動内容を知ってもらえるイベントや当事者同士が話せる茶話会なども開催していきたいです。

全国のもっとたくさんのお母さんたちを笑顔にする活動を

活動する上で大切にされていることは何ですか?

病児や発達がゆっくりなお子さんをお持ちのお母さんは、自分を責めてしまう方が多いと思います。「健康に産んであげられなくてごめん」と思ってしまったり、周りに同じ環境の人がいなくて孤独だったり。そのような状況に置かれているお母さんたちがいつも笑顔で子どもと向き合えるようなお手伝いをしたい、というのがキープ・ママ・スマイリングの理念ですが、そのためには「活動をする私たち自身が笑顔じゃないと!」と常々思っています。活動を支えてくださる管理栄養士の方が「作っている人が笑顔だと、ご飯は美味しくなるのよ」とおっしゃっていて、本当にその通りだと思います。スタッフたちはみんな仲がよくて、まるで部活動のように楽しく活動しています。それで、お母さんたちにも喜んでもらえて、私たちも笑顔になれるという、よい循環ができています。

お母さんたちに温かいご飯を作る


今後の展望をお聞かせください。

お母さんたちに温かいご飯を作る活動は今後も続けていきますが、これからはもっとたくさんのお母さんたちを応援したいと考えています。そこで、2018年春から米澤シェフの料理を缶詰にするプロジェクトを始めたところ、さまざまな方面からご協力をいただき4種類の缶詰を4,000個作ることができました。缶詰なら衛生面も安心ですし、遠方へ配ることもできるので、全国の大病院を中心に付き添いママに配布していけるよう、これから交渉を始めていきます。缶詰は、お母さんたちの健康を考えて無添加とし、そのままでも、アレンジしても美味しく食べられるよう、シェフと何度も試作を重ねて作りました。現在は、クラウドファンディングの返礼として、この缶詰をお渡ししていますので、一般の方にもぜひ召し上がっていただきたいです。この缶詰を全国の付き添いママに継続的に配り続けられるように、また在宅で24時間看護されている医療的ケア児のお母さんたちにも配っていけるように、今後は災害備蓄食として法人向けに販売し、それを缶詰作りの資金に充てることも考えています。そして、こうした活動が広まることによって、付き添いママの大変な状況を「医療の課題」として捉え直し、食事を出す病院が増えるなど、最終的には付き添いママの生活環境全体が改善することが私たちの本当のゴールだと思っています。そうしたら、次は病児や医療的ケア児、発達がゆっくりな子どもを抱え、仕事をやめなければならなくなったお母さんたちの就労支援などにも取り組んでみたいですし、やりたいことはたくさんあります。お母さんの困りごとはいっぱいありますからね。これからも、お母さんたちを笑顔にするために、自分たちができることを着実に続けていきたいと思っています。

お母さんたちに温かいご飯を作る
米澤シェフの料理がいつでも食べられる缶詰。活動を広めて、もっと多くのお母さんたちを笑顔にしたい。


写真協力:NPO法人キープ・ママ・スマイリング
http://momsmile.jp