• ツイッター
  • フェイスブック

これが子育て最前線これが子育て最前線

知ろう!出会おう!とうきょう子育て

地域で芽生えた先駆的な支援策や注目の取り組みを取り上げ、取材して紹介します。

災害弱者から、「助ける側」へ

赤ちゃんとママの防災講座(中野区)

赤ちゃんとママの防災講座(中野区)


プロフィール

上沢 聡子(かみさわ・さとこ)
大阪府出身。大学卒業後、戦略系コンサルティング会社に勤務。上海にMBA留学、著書を出版。「赤ちゃんとママの防災講座」代表、5歳児ママ。防災士、東京都語学防災ボランティア(英語)。2018年度中野区社会福祉協議会中野ボランティアセンター運営委員。

■活動の歴史
2016年1月活動開始。2017年度ボランティア・市民活動総合基金「ゆめ応援ファンド」助成対象、2018年度キリン財団「地域のちから」応援事業。累計約600組の乳幼児親子、約300名の子育て支援者や学生が講座に参加。保健所、社協、児童館、子育て支援施設、NPO、自治会・防災会、大学等で実施。合言葉は「一歩踏み出せば、世界は変えられる」「助けられる側から、助ける側へ」。

阪神大震災の記憶が原点

「赤ちゃんとママ防災講座」の立ち上げの経緯を教えてください。

上沢さん:高校時代、大阪で阪神大震災を経験しました。幸い、自宅は屋根と壁が少し崩れた程度でしたが、音信普通になった友人達も。当時感じた不安や無力感が忘れられませんでした。そして産後、東京でもし子供と被災したらどうしようと思い、仲間と勉強する中で防災講座を立ち上げました。

この防災講座は、皆さんの「災害への漠然とした不安」を整理し、体系的に答える形で開催しています。最初に、地震発生後12時間シミュレーションを行い、課題を把握し、段階的に解決していきます。特に治安・衛生面の問題があるため、乳幼児連れには避難所よりも「自宅避難」を推奨しています。火災や倒壊の危険性がない限りは、できるだけ自宅で生活を続けていくための知恵や工夫をお伝えすることを目指しています。そして、どこから手をつければよいか分からないというママたちには、「すぐ始められる仕掛け」も用意しています。

乳幼児親子に特化した防災

赤ちゃんとママに特化した防災として、どんなことがありますか。

上沢さん:0~3歳児期はコミュニティに属さず、孤独を感じるママたちも多いかと思います。子育てに不安を抱える保護者たちに、「すぐに取り組める防災の知恵」を伝えることで、育児に自信を持ってもらいたいと思っています。

■自宅避難の知恵と工夫を

ほとんどの参加者が避難所に行けば大丈夫と考えておられますが、赤ちゃん連れでの避難所での生活は、周囲への気兼ね、感染症リスク、性犯罪やトラブル、プライバシー(授乳等)の確保など、とても厳しいものです。乳幼児や妊産婦対応も増えていますが、非常時は皆があせってイライラしてしまいます。自宅が安全であれば、自宅にとどまることをお勧めします。そのためにも、まず家具の固定、安全な部屋作りをお伝えしています。防災講座では、1週間自宅で乗り切るための、「備蓄品」「防災グッズがなくても自分で作る知恵や考え方」「実技」も教えています。例えば、すぐ防災グッズに頼るより、「仕組みを知って応用しよう」と呼びかけ、ペットボトルでランタン、家にあるものでオムツや生理用品、紙コップを作ります。他には、赤ちゃん連れ避難の抱っこ方法等。IT・スマホを活用した防災、最近増えている豪雨への対応も意識しています。
それでも自宅避難ではなく避難所へ向かわなくてはいけない場合は、事前に持っていくものを想定して置くことが大切です。成人女性が持ち運べる重さは10キロが限度。子供を背負えば、あとはマザーズバックくらいしか持てません。「一泊旅行に必要なもの+母子手帳・お薬手帳や身分証」での避難を想定しておいてください。身分証があれば、災害時は現金を引き出しやすいです。母子手帳やお薬手帳は、スムーズな受診や処方の助けになります。講座では、母子手帳とお薬手帳の写真を撮り、その場でクラウドにアップするなど、すぐできることを提案しています。

■おくるみで抱っこひも代用ができる

抱っこひもなしで被災したら、どのようにして逃げればいいの? ライフライン停止で不衛生になるのでは? という物不足に起因する不安に対して、実技を重視して教えています。講座では抱っこひもの代用品について紹介をします。しかし、実際に会得するにはかなり練習時間が必要ですし、初めて行うのは危険なため、講師が実演するだけにしています。強い要望があれば、サポートスタッフが参加し、保険に加入していただいた上で実技体験を行っています。

おくるみで抱っこひも代用


「おくるみ抱っこひも」のメリットは、「片手が自由になり、身軽に行動できる」ことです。方法は、スリングとしてママに巻き付けるのですが、コツは、真結び&下から落ちないようにタオルを股から巻きあげること。摩擦で落下を防ぐ仕組みになっています。重心を上にして、ゆらさないことも大切。抱っこひもと同じく、上にあげて、きつめにしめる。基本を知れば楽にできます。ただし、赤ちゃんの機嫌がよい時に、必ず、サポートしてくれる人と一緒に練習してください。赤ちゃんを落とすなど事故につながることもありますので、ご注意ください。いろんな団体が、ウェブで動画を公開されていますので、ご参考になればと思います。

おくるみやシーツを使って


■紙コップを自作すれば、どこでも粉ミルクや水を衛生的に飲ませられる

水の節約・衛生管理の目的で紙コップを作り、粉ミルクを衛生的に飲ませることも必要です。チラシで作ったコップでも1回は水を飲めます。また、コップをアルミホイルで作り、飲み口を赤ちゃんの口の形に合わせれば、新生児からのコップ授乳が可能です。寝たきりの病人や高齢者への吸い飲みとしても使用できます。アルミホイルのコップの内側にビニール袋を敷けば、食器としても使えます。このように、仕組みを知れば、身近なものでいろんな生活用品を作ることができます。例えば、市販のオムツの中身を入れ替えて再利用すれば、レジ袋でオムツを作るよりも漏れにくいものが作れます。また、ガムテープと布を使えば、生理用品の代用品を作ることができます。

チラシで紙コップを作る
チラシで紙コップを作る。


東京都内での都市生活にあわせた防災について

都市生活の防災について、具体的にどんなことがございますか。

上沢さん:関東でマグニチュード7以上の地震が起こる確率をご存知ですか? 実は、「30年以内に、70%」です。首都電気直下型地震では、「電気は7日間、上下水道は30日間、ガスは60日間止まる」といわれています。東京都は、自宅で1週間乗り切れる(自宅避難)ように、呼びかけています。この条件を前提にして講座を行っています。

■都会のトイレ問題は深刻

震度5弱以上は、マンションでは水を流さない、これにつきます。階下への水漏れで賠償発生する場合もあり、このケースは地震保険の適用外です。1、2階に被害が集中しますのでご注意ください。ただし、我慢して水分を控えるのは厳禁です。避難中に病気になってはいけません。震災・避難経験者へ聞き取りをすると、一番の悩みは「トイレ」。特に、悪臭です。災害用トイレを家族人数分、できれば4週間分準備することをお勧めします。その際、汚物を密閉するためのビニール袋にお金をかけること。都市部ではゴミ収集再開までに時間がかかり、保存スペースも限られています。防臭には、赤ちゃんのオムツ処理用ビニール袋が最適です。そこに少し防臭剤を入れて密閉し、浴室などに保存しましょう。

段ボールトイレ制作過程
段ボールトイレ制作過程。使用後は、ビニール袋に汚物を密閉し、少し防臭剤を入れて保存します。


■スマホ充電は命綱

今や、スマホの充電確保は、情報収集や家族との連絡の命綱です。モバイルバッテリーをお持ちの方は増えていますが、ソーラー(太陽光発電機能付)のものを強くお勧めします。従来は、スマホと同じ大きさのパネルが本体についているだけで、発電時間が長くかかるものが主流でした。しかし、最近はソーラーパネルがさらに3枚以上付いている大容量、高速発電できるものが出ており、私はこちらをお勧めします。電池の容量は20000mAhの大容量なら、iPhone8を8回以上充電できます。10日間位の旅行にも適しています。ただし、バッテリーは事故が起きているものもあるため、PSEマークがついているものを選んでください。

ソーラー発電パネルとモバイルバッテリー
ソーラー発電パネルとモバイルバッテリー。今はこれが一体化したものが4000円以内で入手できます。


ママを対象として、子連れ講座を開催

現在は自粛中ですが、ママを対象とした講座はどのような様子ですか?

上沢さん:これまでに約600組の親子、支援者300名が参加してくれています。赤ちゃん連れで参加できる会場探しが大変ですが、見守りスタッフを配置したり、一時保育等も行いながら開催しています。

子連れ講座1
大きい会場では一時保育も実施


子連れ講座2
小さい会場ではママ同士の交流も

参加されたママは、授乳し、お子さんをあやしながら、皆さん一生懸命聞いてくださいます。そんな中で、ママから、お子さんの相手で集中できないので、後で好きな時間に復習したいという要望をいただき、「母子手帳に挟んで携帯できるテキスト」を制作しました。参加者からは「育児に自信が持てそう」、「家族で防災について話しあえた」、「講座への参加を機に、地域に知り合いができた」等、たくさんの声をいただきました。講座終了後に質問に来られる方々は、「1歳と2歳を二人連れての避難はどうしたらよいですか?」「実家が遠くて、頼れる先が近くにありません」「仕事中に被災したら、保育園に迎えにいけません」「夫が防災に興味が無くて困ります」と悩みを打ち明けてくださいます。正直、防災講座だけには収まりきらない内容もありますが、何とか力になりたい、と感じ、それが活動の原動力になっています。

「母子手帳に挟んで携帯できるテキスト」表面
「母子手帳に挟んで携帯できるテキスト」表面


「母子手帳に挟んで携帯できるテキスト」裏面
「母子手帳に挟んで携帯できるテキスト」裏面


ダウンロードしてご活用いただけます。
http://oyakobousai.wp.xdomain.jp/kouza/

子どもを守るのは、「あなた」! 家族で防災、はじめましょう。

活動のこれからについて、目標を教えてください。

上沢さん:今後は、新型コロナウィルスのためますます必要になる「自宅避難」を発信したいです。将来的には、外国にルーツを持つ親子向けに多言語化も。また、「赤ちゃんとママ」と名付けていますが、実際は祖父母、パパ、支援者などいろんな方々が参加されていますので、ママやジェンダーにとらわれず、乳幼児親子を支える防災を発信したいです。そして、災害で孤立する親子を少しでも減らしたいです。

最後に、子育て中のママたちが、日常の中で、すぐに家族と始められる防災を常に念頭に置いて活動を続けたいです。そのためにも、皆さんの要望を取り入れて日々、講座を成長させたいです。何よりも、講座に参加しても、行動につながらなければ意味がありません。我が子を守るのは「あなた」です。そして、今のあなたように不安な誰かを助けてあげられるのも、「あなた」です。一歩踏み出せば、世界を変えられます。この講座をきっかけに、一緒にはじめましょう。

さらに今後は、全国の防災ママや子育て支援団体と経験を共有したいです。動画講座も企画していますが、単独ではなかなか進みません。コロナ禍の活動の工夫など、情報交換していただけると嬉しいです。最近、特に辛く不安な思いをしている乳幼児親子にむけて、協力して取り組めそうなアイディアがあればぜひご連絡ください。お待ちしています。

写真提供:赤ちゃんとママの防災講座
http://oyakobousai.wp.xdomain.jp/
https://www.facebook.com/oyakobosai/